「新しい年を、新しいお箸で」は単なる売り文句ではない / 循環する竹箸 「ヤマチク」

*このコラムは企画展「一年一膳 循環する竹箸展 『ヤマチク』」に関連した特集記事です。

古くから日本には、その年に使う箸を新年に新調する習慣があります。新しいお箸を使うことで、その年の無病息災を祈願する意味合いがあるそうです。ただ、「そういうのいわゆる“売り文句”でしょ」という解釈も否めません。

しかしこの風習、「竹の生態」を知ると、とても理にかなっていることがわかりました。今回は、熊本県・南関町で竹の箸をつくり続ける「ヤマチク」を通して「竹と人の関わり・循環」を考えていきます。

うなぎの寝床 旧寺崎邸・ららぽーと福岡展にて開催(2024年 12/13~12/23)
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イベント会期中はいろんな竹箸がずらり。豊富な種類から自分にぴったりなお箸を選べます。
一年の締めくくりに、来年のご準備に、贈り物に。

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ヤマチク (竹箸工場 / 熊本県・南関町)

1963年創業のヤマチクは、地元産の竹だけを使い竹箸をつくる数少ないメーカーです。軽く、繊細で、丈夫な竹箸の特徴を活かし、手作業と機械加工を組み合わせ、品質の高い商品を適正なコストで生産することを目指しています。

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今も昔も竹を切る「竹取の翁」

いまは昔、竹取の翁(おきな)といふもの有けり。
野山にまじりて竹を取りつゝ、よろづの事に使ひけり。

現存する日本最古の物語「竹取物語」の冒頭文です。ここで登場する「竹取の翁」、実は今も確かに存在します。彼らは「切子さん」と呼ばれ、身体一つで山に入り、20mも超える竹を切り、運び出します。この竹が竹箸の材料となります。

野山に混じって竹を採る姿は、昔も今も変わらずに続く、竹と人の関わりを表す風景の一つです。

 

よろづのことに使いけり

「よろずのことに使いけり」と竹取物語では描かれていますが、実際に竹はどんなものに生まれ変わるのでしょうか。うなぎの寝床で扱っているモノを中心に、九州地方のものづくりを見てみましょう。

九州で有名なのは、大分・別府の竹細工。カゴ、ザルなどの生活道具から芸術工芸まで、生み出されるものは職人・作家によって多種多様。また、日本で唯一の竹細工の職業訓練校があるなど、技術者の育成も盛んです。

竹で生み出されるものは、竹細工と呼ばれるものだけではありません。うなぎの寝床で扱っている生活道具だけでも、竹箸うちわほうき椅子などなど、多岐に渡ります。

もっと言えば、建築資材にも、尺八などの楽器にも、有明海の海苔養殖の支柱にも、春には美味しいタケノコにも、そこにも、ここにも、どこにでも…

挙げればキリがないほどに、「竹」は身近なところで私たちの生活をつながっています。

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【比較する】 資源ができるまで

竹が人間にとって有用な資源だったのには、いろいろな理由があると思いますが、その一つに「資源のサイクル」が挙げられます。他の素材(木・プラスチックなど)と比べてみます。

竹:3~5年サイクル
タケノコが地上に頭を出してから、2~3ヶ月で成竹になる。竹の種類や用途によって異なるが、竹材として利用するのは3~5年生の竹が適良とされる。

木:60年サイクル
苗木を植えてから、木材として利用できるようになるまでにはおよそ40~60年かかる。この期間に、下刈り、つる切り、間伐などの手入れをする。林業は次の世代に向けて木を植え、木を切る。

プラスチック(石油):2億年サイクル
そもそも石油のもとは、今からおよそ2億5000万年から6500万年前のプランクトンなどの生物の死骸。長い年月をかけて変化して液体の石油になり、地下や海底に溜まっているものを採掘する。

竹は他の素材と比べて生育が早く、切ってもまたすぐに別の竹が生えてきます。持続的に扱いやすい資源だからこそ、竹と人間の付き合いは長いのだろうと思います。

 

竹と人間
切ること、使うこと、保つこと

長年関わり合ってきた、竹と人間。しかし、近年バランスが崩れつつあるのも現状です。プラスチックなどの代替材や、安価な輸入品などが参入し、竹が暮らしの中で使われる、竹が必要とされる機会も減りました。

竹は強い繁殖力があり、地下茎でどんどんと増え続けていきます。人が適切に手を入れない限り、竹林は荒れ果ててしまいます(放置された竹林は土砂災害の原因などの様々な弊害を引き起こすリスクもあります)。

竹林を手入れするのは誰か。それは人間であり、言い換えれば「切子さん」ですが、この切子さんも減りつつあります。竹の需要がなければ切子さんも竹材屋さんも仕事にならないからです。

人間がいること、人間が適切に「切ること、使うこと」で竹林が保たれてきました。私たちも生態系の一部なのかもしれません。

 

竹林から食卓へ
質のよい箸を、適正な価格で

竹の箸だけをつくり続けてきたヤマチクは、この課題と向き合い続けています。本当の意味での“持続可能なものづくり”とは何なのか。ヤマチクは2022年に新たな目標を設定しました。

2027年までに原材料である竹の仕入れ原価を、
一本あたり「800円」から「1,200円」まで
値上げすることを目指します

①段階的に竹一本あたりの仕入原価を1200円まで上げ、切子という職業の収入を段階的に増やす
②切子への新規就業希望者を増す
③竹産業を活性化させる
という好循環を作る

引用:ヤマチク note

この目標を達成するためには、ただ単に仕入れ原価を上げることだけでは実現できません。自らがつくる竹箸を、ちゃんとお客様に届け、その利益を切子さんや竹材屋さん、地元の人材に還元していくことが必要です。だからこそヤマチクは、質のよいお箸を適正な価格で届けるための取り組みを続けています。

竹林から食卓へ、切子さんからあなたへ。ヤマチクは竹を切ること・使うことの「まっすぐな循環」を目指しています。

 

ヤマチクの活動俯瞰図。竹の箸をつくるだけでなく、自社ブランドの立ち上げ、社内デザインコンペ、ファクトリーショップのオープン、企業コラボなど、自らの手でお箸を届けるための取り組みは多岐にわたる。

ヤマチクが考える、竹のお箸づくりの正しい循環

① 発注者・販売者・消費者は適正な対価を支払うことで竹のお箸のメリットを享受でき、かつ竹のお箸が今後も手に入る環境づくりへ貢献できます。
② ヤマチクは、切子さんや竹材屋さんの良質な材料を適正価格で買い取ることで、彼らの生活を支え、持続可能な生産体制をつくります。
③ 竹林に定期的に人の手が入ることで、地域の生態系の保全を行うことができます。
④ 竹のお箸づくりを活性化させることで、地域での雇用を増やします。

引用:ヤマチク HP

 

「新しい年を、新しいお箸で」
は単なる売り文句ではない

今回ヤマチクのPOPUPを開催するにあたり、テーマを「一年一膳」としました。「一年に一回、お箸を買い替えてみませんか」というご提案であり、言ってしまえば売り文句です。

しかし、これも私たちつたえて(販売店)としての役割だとも思います。
販売を通して竹が生活に使われ、使われることで竹を適切に切ることができます。使うという行為が、竹林という自然環境や、その周りにある人の営みへとつながっていることを、この企画展を通して私たち自身も学ばせていただきました。

新年に新しいお箸に買い替える日本の習慣を、竹の生育に合わせた自然との関わり方、循環の仕方の一つとして、改めて提案します。

荻野

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【おまけ】 日本人と箸

食べ物は、自然そのものだ。どんなに加工しようとも、元々は自然からしか得られない。しかしその自然をどのように料理へと昇華させ、そしてどのような道具を使って口へ運ぶのかで、その文化が持つ自然と人間の関係性があらわれる。

食べ方の文化圏を大きく分けると、手食・箸食・ナイフ/フォーク/スプーン食の3つしかない(ちなみに手食約45%、箸食30%、ナイフ/フォーク/スプーン30%だそうだ)。しかし元をたどれば、みな手食だったとされる。

では日本人はどうなのか。実は日本が手食から箸食文化へ移行したのは、8世紀末〜9世紀なのだそうだ。小野妹子が隋から持ち帰ったのが最初とされており、当時は竹をまげてピンセット型にした箸だった。その後、現在と同じ丸棒型が一般に広く普及していく。

日本料理はカッティングの芸術と言われる。自然を自然のままいただくこと、つまり、料理をしたと見せないことを料理の極意としている。そのため表からは見えない台所で切断・調理が行われ、食卓に出される。箸でつまんだり、ほぐしたり、切ったりできる範囲で、そのまま食べられるように入念に準備がされているのだ。

たいして西洋料理は、途中段階で食卓へ出てくるものも多い。ロースト料理などは肉の塊が丸焼き状態でテーブルに出てきて、取り分けられ、お皿の上でナイフとフォークで切断し口へ運ぶ。

山内氏*はこの違いを、自然(食材)と人間の切断を、目の前で見せるか裏方で行なうかの違いだと記している。自然への勝利を誇示するか、あえて見えなくして曖昧にするか。自然に対する考え方や、文化的な距離感の違いが、如実にあらわれているのだ。

*山内昶『食具(ものと人間の文化史)』

出典:【なべリサーチ日記】橋としての箸

 

<参考文献>
別府市竹細工伝統産業会館 「竹について」
林野庁 「竹の性質」
林野庁 「森林の育て方、木材生産」
四国電気 「電気の子ヨンの暮らしと電気、大たんけん!」

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