石と土からできるネイティブスケープ【2】 陶器や磁器の表面はなぜガラス質なのか?
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陶器や磁器の表面はなぜガラス質なのか?
身近にある器を手に取ってよく観察してみると、ほとんどの器の表面はガラス質になっています。その理由は主に『装飾性・耐久性(強度・汚れにくさ)』にあります。陶器や磁器は元を辿ると構成比率の違いはあれど、それぞれ石と粘土から成り立っています。それらの原料を粉砕、練り、形を整えた後に高温で焼くと表面がガラス化するのでしょうか?答えは半分YESで半分NOです。何が足りないのか、ガラス・陶器・磁器の成分から確認してみましょう。
萩ガラス工房 カリガラスのしょうゆ差し(原料は石英玄武岩)
〇ガラスの主成分
ガラスは「珪砂(石英)・ソーダ灰・石灰」から成り立っています。珪砂(けいしゃ)とは珪石(けいせき)という石が砂になったものです。
上記は一般的に多いソーダガラスというガラスの成分です。1,700度以上の高温でしか溶けない珪砂にソーダ灰を加えることで溶融温度を下げ、1,200~1,400度で溶けるように調整されています。写真のカリガラスはソーダガラスのナトリウム成分(ソーダ灰)がカリウム(石英玄武岩等に含まれる)に置き換わった組成で、より透明で硬質なガラスです。
〇陶器と磁器の主成分
陶器 ー 珪石40%長石10%粘土50%
磁器 ー 珪石40%長石30%粘土30%
※おおよその割合、長石も珪石と同じくガラス成分
陶器と磁器の成分を詳しく見るとガラス質になりそうな石が含まれています。しかし、粘土も多く含まれているため表面を全てガラス質で覆うほどのガラス化にまでは至りません。そこで、表面を更にガラス質で覆うために必要なものが「釉薬(ゆうやく)」と言われるうわぐすりです。
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釉薬とはどんなもの?
釉薬は冒頭でご説明した陶器や磁器の表面をガラス質で覆うためのうわぐすりで、『装飾性・耐久性(強度・汚れにくさ)』の役割を担います。特に装飾については千差万別な変化で私たちを魅了します。釉薬での色変化に深く関係しているのは釉薬に含まれる「鉱物(金属)」と「焼成(しょうせい)」と言われる窯で焼く工程です。まずは、釉薬の成分から見て行きましょう。
〇釉薬の主成分
釉薬は「長石・珪石・粘土・灰」から成り立っています。釉薬の種類によって構成比率や成分に少し違いはありますが、半分以上は石の成分でできています。灰で溶かし、粘土でくっつき、珪石がガラス化するイメージです。長石はそれら全ての役割を担います。
釉薬に使用される石には鉱物(金属)が含まれており、窯焼きの過程で鉱物が色変化を起こすことで器の色合いが決まります。また、窯焼き(焼成)については2種類あります。
- 酸化焼成・・・燃料が完全燃焼するだけの十分な酸素がある状態で焼かれる焼き方
- 還元焼成・・・酸素が足りない状態で燃焼が進む焼き方。不完全燃焼
金属である10円玉(銅)を例にとると、錆びれば(酸化すれば)表面が緑色に変化します。同じように銅を含む釉薬を酸化焼成すれば酸化のため緑系に変化します。還元焼成は窯内の酸素を薄くすることで釉薬内の酸素を奪って燃えようとする働きが生まれます。金属から酸素が失われることを還元と言い、銅の場合、元の赤銅色(赤系)に近づきます。
釉薬の種類について
釉薬の種類は細分化すると膨大です。例として4つの釉薬をご紹介したいと思います。皆様のお手元にある器はどのような釉薬が使われているでしょうか、ぜひ手に取って観察してみてください。
- 灰釉(左上)・・・草木の灰が主成分で最初期の釉薬。柞 (いす) 灰、土灰、藁(わら)灰の3系統に分類され、それぞれ淡青、淡青緑、乳白色の釉ができる。
- 透明釉(右上)・・石灰釉や鉛釉など焼成後に無色透明になる釉を透明釉と呼ぶ。天然素材の灰を使う灰釉は、乳白色に近づくが、透明に近いものを透明釉と呼ぶこともある。
- 緑釉(左下)・・・透明釉である鉛釉に銅を加えたもの。銅が酸化し、緑色となる。灰釉と並ぶ最初期の釉薬。銅緑釉とも言い、現代では織部釉とも言われる(※)。
- 鉄釉(右下)・・・灰釉に鉄分を加えたもの。黒、褐色、茶、黄色、青など、鉄の含有量や不純物により様々な色に変化する。青磁釉や飴釉など。
※千利休の弟子である古田織部が、萌え出でる若葉や自然を象徴する『緑青色』を器に再現しようと緑釉を用いて作らせた織部焼が由来
日本における釉薬の始まり
日本で意図的に釉薬が使われ始めたのは奈良時代(8世紀)にまで遡ります。中国唐代では「唐三彩」という、釉薬の色変化を利用した三色で彩られた製陶が盛んでした。それを模した「奈良三彩」という彩釉陶器がつくられた時期に、釉薬が使われ始めたと考えられています(※)。それまで、5世紀頃に朝鮮半島からもたらされた高火度の製陶技術により、窯の中の灰が器表面に付着することで自然釉としてガラス化することがありましたが、あくまで偶発的なもので均一なガラス化ではありませんでした。
※7世紀後半に朝鮮半島南部からもたらされた緑釉陶器技術が日本での釉薬の始まりとする説もあります。
うなぎの寝床で取扱いのある陶器・磁器の釉薬について
風見窯 茶香炉 青瓷
灰釉 × 還元焼成 ×貫入
※貫入(かんにゅう)
焼成後の冷却時に釉薬と素地(陶器本体)の収縮率の差で生まれるひび模様八女の赤土に天草陶石を混ぜた粘土、鹿児島の木灰を釉薬の主な原料に使用。中国の古典陶器である青磁の美しさを独自に追求し、器全体の色が明るく、透明感のある薄づくりで美しい青磁を特徴とする。
今村製陶 JICON マグカップ小(渕錆)
白釉+錆釉 × 酸化焼成
一般的な有田焼の青白くどこまでも完璧な艶やかな白ではなく、ありのままの陶石の白・釉薬の白、磁器でも素材感を感じる器の肌合いにしたいという思いから作り上げられた「生成りの白」が特徴。元の陶石や釉薬の素材感を感じ取れるよう、あえて褐色の点(鉄分)やざらつきを感じる微粒子が表情にでるように、釉薬の撹拌をほとんど行わず、器の表面に鉄粉や微粒子が残るよう製作されている。
企画展「石と土からできるネイティブスケープ」では『あなたは石タイプ?それとも土タイプ?』というチャート診断をもとに、福岡県、佐賀県、山口県でつくられた「陶器」「磁器」「ガラス」からまずはふれていただき、石ものや土もの、そしてガラスとはどんなモノのことを指すのか、特徴や産地などから検証・考察します。ぜひお立ち寄りいただければ幸いです。今回取り上げた「釉薬」についてもぜひご参考ください。
研究員 Y.K
※1、2 photo / Koichiro Fujimoto
参考資料
うなDIGTIONARY【#2】 磁器 – 石が化けたもの –
うなDIGTIONARY【#6】 陶器 – 土が化けたもの –
一般社団法人日本硝子製品工業会HP「ガラスの原料」
国立歴史民俗博物館研究報告 第94集 高橋照彦 日本古代における三彩・緑釉陶の歴史的特質
クリスティーン・コンスタント&スティーブ・オグデン(1996)「やきものの釉薬」グラフィック社