つくりて一覧

江の浦海苔本舗

（有明海苔加工業/福岡県・みやま市）

http://enouranori.com/

商品一覧へ

江の浦海苔本舗は、海苔加工業者として2009年創業。有明海で海苔漁師をしていた森田修司さんが、福岡県みやま市で始めました。幼少の頃から祖父の海苔養殖の家業を手伝っていた森田兄弟。弟の修司さんは大人になって自らも海苔漁師に。ある頃から「最近の海苔は味が落ちた」と耳にするようになり、市販の海苔を食べてみると、自分たちが普段食べている海苔とは違い海苔の風味が活かされておらず、質が落ちたと感じます。森田さんが海苔づくりをする有明海は、九州最大の河川・筑後川をはじめ、有数の流入河川を誇り、阿蘇山や耳納山地、大分の九重連山など多くの山々から湧き出す水が、森の恵みを蓄えながら注ぎ込んでいます。この海苔作りに適した海ともいえる有明海でつくった海苔の本来の美味しさを届けたいと決意し、江の浦海苔本舗を立ち上げました。海苔漁師としての目利きを活かし、初摘み海苔のまろやかな旨味と甘みを伝えていきます。

■ 土地性　：　海苔養殖の条件が揃う「奇跡の海」有明海

有明海は全国一を誇る海苔の産地です。福岡・佐賀・長崎・熊本の4県にまたがる有明湾には、筑後川をはじめとして大小100以上もの河川が流れ込み、栄養分をたっぷり含んだ淡水と海水が混じり合います。干潮時には何キロにも続く壮大な干潟が広がり、最大6ｍにもなる干満差は世界でも有数です。この環境を生かし、有明海では昔から「支柱式」と呼ばれる独自の養殖方法がとられています。大量の支柱の間に張られた海苔網が、満潮時は海に浸かって栄養分を吸収し、干潮時は海面から上がり日光を浴びて光合成をすることで旨味を蓄えるのです。かつてこの支柱は九州産の女竹で作られていたことから、支柱を立てていく作業は今でも「竹立て」と呼ばれています。

■ 歴史　：　有明海での海苔養殖のはじまり。半農半漁での兼業が主流

海苔は古くから日本人の食文化に欠かせない存在でした。かつては岩海苔など天然のものを採っていましたが、江戸時代には和紙状に海苔を加工する養殖技術が確立され、技術改良を重ねながら全国へと広まりました。有明海での海苔養殖は、1900年(明治33年)に大牟田での試験養殖から始まります。江の浦海苔本舗代表の森田修司さんの祖父・勇さんも、戦前に大牟田の養殖の手伝いに行ったといいます。その後、戦争から戻った勇さんは、当時一般的だった半農半漁での海苔養殖を始めます。秋から冬にかけて行われる海苔養殖と、春から夏にかけて繁忙期を迎える米や茶などの農業は兼業しやすく、それぞれの閑散期に人材が行き来しながら支えあっていたのです。また、海苔養殖は環境の影響も受けやすく、1989年から始まった諫早湾干拓事業により赤潮や浮泥の沈下が発生。有明海の生態系を守るため、向き合っていかなければならない課題の一つです。

■ 素材　：　「スサビノリ」という海藻を培養し育て加工する

私たちが普段口にする「海苔」は、学術的には紅藻類と呼ばれる藻類で、ウシケノリ科アマノリ属に属する海藻のことを指します。アマノリ類だけで日本で30種・世界で133種あるといわれていますが、現在食用で養殖されている海苔の99%が「スサビノリ」と呼ばれる品種です。もともと江戸湾で始まった海苔養殖では「アサクサノリ」という品種が主役でしたが、1960年代以降は、より生育が早く、収穫しやすいように品種改良した「スサビノリ」が主流になりました。海苔は形の異なる「葉状体」と「糸状体」の間で世代交代をしながら繁殖します。私たちが食べている海苔は「葉状体」が板状に加工されたもので、夏から秋にかけて培養し種付けされるのが「糸状体」の海苔です。

■ 技術　：　初摘みの海苔だけを使い、風味を残した乾燥と加工

海苔養殖は１年をかけて成長する海苔の生態に合わせて進みます。まず海苔の胞子を牡蠣殼に植え付け、3月から9月にかけて培養します。網に取り付けられた種は10月に漁場に広げられ、15~20cmほどに育つと収穫。海苔は3月頃まで何度も収穫されますが、11月下旬頃に収穫される「初摘み」だけにこだわって仕入れ、風味を残しながら加工するのが江の浦海苔本舗の技術の見せ所。採れたての海苔を「みす」の上で四角い形に漉いていき、温風にあてて乾燥。この際、4％から6％まで水分を飛ばし、海苔の風味が消えない3カ月以内に味付け海苔や焼き海苔などに加工します。元漁師として、養殖と加工の両方に携わってきたからこそのこだわりが生かされています。

■ 思想　：　元漁師として、収穫したての海苔の新鮮な風味を届けたい

幼少の頃から祖父・勇さんの海苔養殖を手伝っていた森田修司さん。一度は薬品メーカーに就職し海苔養殖から離れたものの、家業を継いでほしいという両親の願いで海苔漁師になりました。しかし海苔の平均価格が底値をついていた時代だった上、祖父の代から使っていた船や設備は老朽化しており、海苔漁を続けていけるか悩んでいたといいます。そんな時に聞いた「最近、海苔の味が落ちた」という声がきっかけとなり、品質が落ちていた海苔加工に一石を投じようと決意し、海苔漁師を引退。2009年に海苔加工業に特化した「江の浦海苔本舗」を立ち上げたのです。採れたて・焼きたての海苔を食べてもらうため、品質や加工方法にこだわって海苔を製造しています。

※あくまでもうなぎの寝床が解釈する、つくりてのものづくりへの思いや思想です。