思い、巡らし、行動す 久保かすり織物 1 / もんぺ博覧会2026

うなぎの寝床が久留米絣と関わりはじめて10年以上が経ちました。
その間に良いことも、そうでないことも様々なことが起こり、変化がありました。ただ、変わらないのは、織元も私たちもみな、久留米絣を伝えたい、久留米絣を繋げていきたいと日々模索し、葛藤し、動こうとしていることです。久留米絣に関わるそれぞれが「今」考えていることや取り組んでいることを記してみたいと思います。

掃除が、いい仕事をつくる。小さな積み重ねが柄になる、久留米絣

店舗スタッフの田中です。わたし達のお店では、久留米絣の生産背景をお客さまにお伝えする場面が、日々あります。書籍に「30工程以上ある織物」あり、手間がかかるものであることに違いありません。でも、実際に織元を訪れるたびに、その「手間」の内訳と、作業の途方もなさを知り、いつも頭が下がるような思いになります文字の「30工程以上や「手間」という言葉だけでは伝えきれないことがあまりにも多い。数字の向こうにある、つくりてのこと、真摯な仕事への向き合い方をこのコラムで少しでも伝えることができればと思っています。 

 

ルーツは一級建築士。 

福岡県筑後市にある久保かすり織物は、たて絣に特化した久留米絣の織元です。たて糸だけで柄をつくるたて絣では、表現できる模様に制約がありますが、その制約の中で複雑な模様を生み出せるところに、久保かすり織物の高い技術があります。新素材や筑紫つむぎ、業界初のY式デニムを手掛けるなど、受け継いだ技術を土台に、新しいことへの探究心も手放さない織元です。 

ここを訪ねるまで、知らないままだったことがあります。それは、ものが出来上がる、もっと手前の環境から、ものづくりはすでに始まっているのかもしれない、ということです。 

3代目の久保竜二さんはかつて、ゼネコンの一級建築士でした。数百人の作業員が関わる現場で、誰が見てもわかる精緻な図面を引き、億単位の仕事の工期を何があっても守る。そんな巨大建築の世界から、家業である久留米絣の織元へ。異色の転身のようですが、久保さんの生産現場を見せていただき、お話を聞いていくと、むしろ必然に思えてきます。建築も織物も、緻密な設計をもとに無数の工程を積み重ねて構造をつくり上げていきます。ミリの誤差が後の工程や、完成度を大きく左右する世界。対象とスケールは違いますが、「ものを正確につくる」という点、ふたつの仕事は同じ地平に立っているようにみえます。

埃ひとつない織機が語るもの。 

久保さんの工場は、いつ訪れても綺麗です。綿素材を中心に扱うため、綿埃が付くのは避けられないはずの織機がピカピカ。各工程の作業スペースや道具も整然と整えてあり、裏道の通路まですっきりと整理整頓されていて、清々しい気持ちになります。仕事柄、頻繁に撮影に訪れる同僚と訪れた帰り道には、「今日も綺麗だったね」という言葉が互いに自然と出てきます。

羽の1本1本までよく見える織機の綜絖(そうこう) 

すぐに取り出しやすい道具

干し方も整然と美しい

「なぜ、こんなに工場が綺麗なですか?」と尋ねると、掃除と整理整頓は、久保さんに とって「ごく当たり前のこと」だといいます。「掃除をきちんとすることで、生地や機械の不具合を減らすことができるし、普段との違いに気づくこともできる。逆に掃除をやらないと作業がすすまない。いかに効率的に仕事をすすめるかを考えたら、掃除は良いことしかない」のだそうです。妻の真理さんも、「ピンセットで機械からひとつ糸屑を毎日外しみんなよくやってくれています。機械織と言っても、久留米絣はいろいろな所に目配り、手配りをしてようやく出来上がる織物なので」と、普段の心がけを話してくださいました。どう浸透させているのかも聞いたところ、掃除の大切さは伝えてはいるけれど、自然と職人さん達は日頃からされているそうで、指示ではなく、姿勢が伝わっている。そういう工場なのだと思いました。 

産地の中でも、織元によって工場内の配置や設計はさまざまですが、久保かすり織物では、織物の仕上がりの鍵となる「つなぎ込み」や「荒巻」の工程を、他の工程とは別室行っています。織機の音が響く喧騒の中ではなく、職人が集中して糸の準備に向き合える環境を広く整えています。整理された空間が集中と精度を生む。精度が、美しい柄を生む。このことを、久保さんは身をもって知っているのだと、思いました。たて絣の技法で複雑な模様を生み出すには、糸を織機にかける前準備の精度が重要です。この工程を支えているのが、乱れのない作業環境であり、職人の途切れない集中力。黙々と手を動かす職人の方々の姿が、それらを説明してくれていました。 

神は細部に、掃除に宿る。 

「神は細部に宿る」という言葉があります。久保さんの工場を見ていると、その細部は、掃除と整理整頓であり、職人が集中できる環境そのものにあらわれているのだと感じます。 

これは、久留米絣に限った話ではないかもしれません。どれだけ古くても、厨房がピカピカに磨きあげられた飲食店の味はブレず、なぜかおいしいことが多い。また、店舗のトイレや美観も、見えないところを疎かにしない姿勢がそのまま出る場所です。自分たちの仕事場の状態はどうなのだろう。訪問の帰り道、そのことが頭を離れませんでした。 

 

この一本を、穿いてみてほしい。 

久留米絣のもんぺには、つくりの技術とともに、仕事の哲学や時間も宿っているように思います。掃除の行き届いた気持ちの良い工場で、職人の方達の緻密な仕事を積み重ねて、生まれた一本。背景を知ることで、同じものがきっと違って見えるはずです。見て、触れて、穿いてみてほしいです。その価値を穿いてみて、感じてもらえたら嬉しいです

 

八女本店 田中

 

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