がっつり”ネイティブスケープ”な人「ミマツ工芸」

「實松さんはがっつり”ネイティブスケープ”な人だよね」
先日、ミマツ工芸の工房にお邪魔した時のことを話しているとき、スタッフの一人がこんなことを言っていました。その土地に生きて、考えて、これからの風景をつくる人なんだなと。確かになぁ〜と思いました。

「もしかしたらみんなネイティブスケープなんじゃないか?」
話している中で自分はこうも思いました。目の前で起こるものごとを、自分ごととして、等身大に考える實松さんの姿は、ものをつくるとかそうでないとか限った話ではなく、どこか共感できる何かがあるように感じます。

今回は、佐賀県神埼市で木と向き合う「ミマツ工芸」について、どんなところで生まれ育ち、何を考えて、どんな未来を描いているのか、自分たちなりに整理しながら、地域文化ってなんだろうかとぐるぐる考えてみたいと思います。

ネイティブスケープ(Nativescape)とは
「ネイティブ(その土地固有の)」と「ランドスケープ(風景)」を足した造語。
うなぎの寝床では、地域固有の文化と物語(ネイティブ)を重んじながら、未来へとつないでいく人々がいる風景(ランドスケープ)をネイティブスケープと定義しました。

【旧寺崎邸にて開催】ミマツ工芸のスギ ~木と向き合っていま何をつくるのか~

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筑後川が育んだ家具産地 「大川と諸富」

筑後川の河口付近の地域(福岡県大川市・佐賀県諸富町など)は、古くから木工業が盛んな地域です。
筑後川の上流には林業が盛んな大分県日田市があり、そこで伐採された木は筏(いかだ)に乗って河口へと流されたことで、その周辺で家具産地が生まれました。1955年には、筑後川に諸富橋と大川橋が開通したことで交流が盛んになり、諸富町は大川市に次ぐ九州の一大家具産地として発展しました。現在も木工に携わる様々な業種が集まる産地として息づいています。

関連書籍: 『筑後川を道として』

 

“自分がつくるべきものは何だろう?”

ミマツ工芸は、そうした家具産地の中で1972年に創業。主に婚礼箪笥の装飾やテーブルや椅子の脚の部品などを制作していました。

しかし、日本の経済成長期に伴う結婚ブームやベビーブームが終わりを迎え、木製家具の需要が低迷し、安価な海外製のものが国内に入ってくるようになります。不況の波を感じるようになった頃、2代目の實松英樹さんは「自分がなぜ木工をするのか?」改めて考えるようになります。

この大きな問いに対して、實松さんは毎日散歩をしてあれこれ考えたそうです。

その中で、實松さんとしての答えとして「誰かから依頼を受けて作るのではなく、自分がつくりたいものをつくりたい、自分が実現したい生活を目指すものをつくりたい」という素直な思いが湧いてきました。

こうして、2008年にデスクインテリア小物を手掛ける自社ブランド「M.SCOOP」が生まれます。

2008年に生まれたM.SCOOP

 

海外への挑戦から見えた足元
ここでつくる意味とは

2015年にはM.SCOOPを持ってパリの展示会に出展します。
その中で、展示会に来ていた方からこんな疑問を投げかけられたそうです。

「どうしてアメリカ材を日本で加工してパリで売っているの?日本に木はないの?」

当初は海外産の木材を使用していましたが、この経験によって實松さんは今まで考えていなかった足元が見え、日本という土地、佐賀でものをつくるという意味を考えるようになったそうです。そこから佐賀を含む国産の木材を使用したものづくりも取り組み始めます。

現在うなぎの寝床でお取り扱いしている「2016年ひのきシリーズ」

 

”スギってこんなに美しいんだ”

ミマツ工芸では、先代の頃からスギの丸太を使った年輪時計を作っていました。2016年、先代が作っていた年輪時計を偶然HPで見て、とある企業から年輪時計をつくってほしいと連絡が入ります。会社の周年祭のノベルティとして敷地内に植林されたスギから時計をつくりたいとのことで、その加工を依頼されます。

このとき、實松さんにとってスギはそんなにやりたい素材ではなかったそうです。スギは木材の中でも特に木目と色味が不均一で、木目の肌合いを生かした製品ではキレイにつくることが難しいとされるようです。

しかし、実際に届いたスギの年輪がとても美しく、「スギってこんなに美しいんだ」ということに気づかされました。この気づきをきっかけに、「スギ」という素材を活かした製品づくりを始めます。「きれいなものをつくるために素材を選ぶのではなく、身近にあるものからどう美しさを見出すか 」という視点から「NENRIN」が生まれます。

NENRINシリーズはすべて国産杉からできています。
ゆくゆくは、地元佐賀の木材を活かしたものづくりをして、”ここでだからできる木工” について考えたいと仰っていました。

筑後川が育んだ家具産地に生きて、自分がすべきことを考え、これからの風景をつなぐ。
實松さんからそんな”ネイティブスケープ”な姿が見えたように思います。

 

もしかしたらみんなネイティブスケープなのかもしれない

「自分はこれからどんな大人になりたいか。かっこいい大人になりたいと思った」
M.SCOOPができるまでのお話のときに、實松さんがこう仰っていたのが印象に残っています。”自分がどうありたいか”という、誰しもが持っていても真剣に向き合うのをためらいたくなる壁と素直に向き合われているんだなと。

自分はつくる人ってすごいなと憧れてしまいます。ないものはつくれるという生命力というか。そもそも何かをつくったり、表現したものを誰かに見てもらうことは、自分にとっては怖いというか恥ずかしいと思ってしまうことで、それを続けていること、誰かのためになっていることがかっこいいなと思っています。

そんなかっこいい人たちになんとか近づきたいという思いで、話を聞いたり、調べものをしたり、伝えられるよう言葉にしているという部分も自分にはあります。上手く書けたらニンマリして、なかなか書けなくて頭を抱えて、書いたことが本当に伝わるのだろうかとうねうね考えたりします。

でも、もしかしたらそれってつくりてさんも同じなのかもしれないと實松さんを見ていて思いました。それでも實松さんは自分が置かれている状況と向き合い、等身大に考えて行動されているなぁとまじまじと感じました。

「みんなネイティブスケープなのかもしれない」
説明はできないし、自分でも噛みきれていないけれど、ぼんやりとこう思いました。

荻野

 

ミマツ工芸 二代目 實松英樹さん

 

旧寺崎邸にて3月9日からスタート!

■ うなぎの寝床 旧寺崎邸
2023/3/9(木) 〜 3/21(火・祝)
時間 : 11:00 〜 17:00(最終日のみ16:00まで)
住所 : 福岡県八女市本町327

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