思い、巡らし、行動す 久保かすり織物 2 / もんぺ博覧会2026

うなぎの寝床が久留米絣と関わりはじめて10年以上が経ちました。
その間に良いことも、そうでないことも様々なことが起こり、変化がありました。ただ、変わらないのは、織元も私たちもみな、久留米絣を伝えたい、久留米絣を繋げていきたいと日々模索し、葛藤し、動こうとしていることです。久留米絣に関わるそれぞれが「今」考えていることや取り組んでいることを記してみたいと思います。

久留米絣の美しさをつくる 見えない仕込みの話。

3日じゃ、織れない!

「織物ができるまで」を想像する時、童話「鶴の恩返し」の機織りシーンが思い浮びます。物語では、娘に姿を変えた鶴が老夫婦の元を恩返しに訪れ「絶対にのぞかないで」と部屋にこもり、3日後に美しい布を織りあげて出てくる流れですが、もし鶴が久留米絣を織っていたとしたら、2〜3ヶ月はこもっていたことでしょう。それに、機織りを始める前のサイドストーリーがあり過ぎて放送枠にはおさまらず、超大作映画になっていたかもしれません。鶴が織機の前に座るまでの間、つまり糸を仕込む段階から久留米絣には、見えない工程が数多く存在します。鶴の言いつけは破っちゃいますが、扉の向こう側の世界をのぞいてみましょう!

織り始める前準備が、肝。

久留米絣の柄の仕込み作業は、職人が織機の前に座るずっと前から始まります。織る前の工程の仕上がりが、最後の織り上がりの完成度に大きく影響するのです。織る前準備の段階で大きく整え、織る時にさらに細かく整える。段階を経て、柄をどう合わせていくのか?前準備の工程を、福岡県筑後市の久保かすり織物で見学させていただくことができました。

 

経割・留め合わせ 

図案に沿って、染め分けた糸の束を、図案通りの順番になるよう手作業で分けながら、1mごとに糸で結んで固定していきます。(織元や柄によりそのスパンは異なる)気が遠くなるほどの量の糸の塊に向き合って、完全な手作業で行なっています。



櫛目の細かさは久保さんならでは

割込・筬通(おさとおし)

染め分けた絣糸と地糸(無地の糸)を組み合わせて順番通りに並べます。その順番が狂わないよう、細かい羽の一つひとつに糸を数本ずつ通します。ここで間違えると目指す柄にならないので、責任重大。絶対に誰にも話しかけられたくないタイミングです。

荒巻 

前工程までに整えた800本以上のたて糸14反分(約190m※織元により異なる)を、張力を均一に整えながら、太鼓と呼ばれる巨大な木枠に巻き取っていきます。乱れれば、織り上がりの柄がそのままズレてしまいます。25mプール6往復強の糸をひたすら巻いていくと思うと、気の遠くなる作業です。ここで意図的にずらして巻くことで、横並びの柄を互い違いに出す技法もあります。(ぐの間)

わたしにはどの工程でも、すべて同じ糸束にしか見えなかったのですが、職人さんが着々とつなぎ留めていく迷いのない手捌きには、見えない完成図が頭の中に入っているように見えました。ここからどんな柄ができるのかを久保さんへ聞くと、
「世の中のあらゆる幾何学模様は、意外とシンプルにできるんですよ」と、ニヤッとされ、図案を見せてくれました。 

 「一見、複雑で手が込んで見える柄も、実は長方形の単純なくくりだったり、ぐの間の繰り返しだけでできたりする。普段生活していても、模様が目に入ったら何種類くくったらできるか。すぐ考える癖がついている」のだとか。いくつかの形を見ながら、「これは6種類、あれは8種類でできますね」と、くくりの数をポンポン、シュミレーションされていきます。恐るべし、設計者脳…!こういった、織元さんならではのユニークな職人思考に触れると、久留米絣のおもしろさを誰かに話したくて、たまらなくなります。



 

絞るから、深くなる 

たて絣は、たて糸のくくりだけで柄をつくるので、規則的なパターンの柄を得意とする技法。なので、曲線や複雑な幾何学模様を生み出すには、緻密な図案の設計と高度な糸の制御が必要です。そのたて絣だけで勝負するということは、多種多様な柄を織る上では、ある意味で制約です。でも、久保さんの工場を見ていると、その制約がたて絣の可能性を広げてきたように感じます。絞るから、深くなる。久保さんならではの技術のルーツが垣間見えた訪問でした。鶴の言いつけを破ってしまったあなた。扉の先で見た、つくる人の思考と仕込みの時間が宿ったもんぺを、ぜひ手に取ってみてください。

八女本店 田中 

 

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