わたから見えるネイティブスケープ【3】 ヒトは「毛」のかわりに「わた」をまとう!
少しづつ寒くなり、布団やはんてん、こたつなど、いろいろな「わた」に囲まれる季節になりましたが、「わた」が何からできているか考えたことありますか?
“ふわふわ”した見た目は暖かそうに見えますが、いったいなぜあたたかいのか。いろいろな素材の「わた」を調べていくと、どうやらヒトは「毛」のかわりに「わた」を使い、「空気」をまとって寒さをしのいでいるようです。
■ 生き物の「毛」がもつ役割
「わた」の原料は「毛」です。人間にも毛が生えているように、多くの生きものには毛があります。広い意味で見てみると植物や昆虫などにも毛のようなものがあり、それぞれの暮らしを支えるために大切な役割を果たしています。
例えば、ゾウリムシの毛やタンポポの綿毛(わたげ)は移動するためのもので、キウイフルーツは乾燥から守るために毛をもち、ホッキョクグマやラッコの毛は体温を維持して生きるために欠かせないものです。ヒトも薄く短い体毛をもちますが、猿からヒトへと進化し高い気温のなかで生きていくために適応し、体毛は薄くなっていったそうです。
■ 動物や植物の毛からつくられる「わた」
「わた」は袢天やジャケット、布団やこたつ布団などに使われ、身の回りを保温して寒さをしのぐために使われています。
カバーをかけられた「わた」は、見た目は同じように見えますが、その「わた」が何からつくられているかによって機能は違ってきます。コットン、ウール、羽毛、絹、ポリエステルなどがあるなかで、コットン、ウール、羽毛は生きものの「毛」からつくられています。
・木綿わた(コットン)
アオイ科ワタ属の植物である棉(ワタ)の実の中にある綿毛からつくられます。1つの種子に数万本の綿毛がついていて、もともとは種子を風で遠くへ飛ばすためのものです。繊維にはストローのような空洞があり、乾燥すると平たくなり、よじれるため、撚りの部分に空気を維持できます。水分と湿気を吸収し、吸水する際に発熱し、太陽の下で天日干しをすることで湿気を放出できます。強度・耐久性があり、濡れると強度が増します。
・羊毛わた(ウール)
ウシ科ヒツジ属の哺乳類である羊の毛からつくられます。羊は粗くてかたい上毛(うわげ)と、細くて柔らかな下毛(したげ)をもち、柔らかな下毛がウールになります。繊維にちぢれがあり、ちぢれが多いほど毛と毛の間に空気をためやすくなります。表面はウロコ状になっており水をはじきますが、湿度が高くなるとウロコのすき間から湿気を吸収し、放出することができ、湿気を吸収する際に発熱します。摩擦に弱く、縮んで硬くフェルト化する性質をもちます。
・羽毛わた(ダウン・フェザー)
アヒルやガチョウなどの水面や水辺で生活する水鳥の羽毛からつくられます。羽毛は、飛ぶために必要でしなやかな表面をつくりだす羽根状のフェザーと、保温の役割をはたすワタ状のダウンからできています。他の繊維とは異なり三次元の立体構造をもつため、弾力性に優れ、へたりにくい特徴をもちます。湿気を吸収し、放出でき、とても軽いのが特徴です。
■ 化学繊維からつくられる「わた」の登場
化学繊維の研究が進むと、石油を原料としてつくられる合成繊維のポリエステルからも「わた」がつくられるようになりました。
・ポリエステルわた(合成繊維)
主に石油を原料としてつくられる合成繊維のひとつです。繊維の構造を自由につくれるほか、防ダニや抗菌、防臭加工など、さまざまな機能を付加することができます。湿気を吸収しにくいですが、弾力性があり、ホコリが出ず、軽くて取り扱いやすいのが特徴です。他のコットンやウールのわたに混ぜて使われることも多く、はんてんにもコットンとポリエステルを混ぜてつくったものがあります。
■ 「わた」がもつ暖かさは、空気の量に比例する
「毛」をもつ動物が体温を維持できるのは、毛の間に空気をため込んで断熱できるためです。どんな素材でもわた状にすると繊維と繊維の間に空気を含むため、断熱性と保温性をもつことができます。ため込む空気の量が多いほど、断熱効果が高まり暖かくできます。ストロー構造のコットン、ちぢれのウール、立体構造の羽毛、発展していく化学繊維。どれも暖かいのですが、大きな違いは水分や湿気に対する適応力のようです。
数えきれないほどいる「毛」をもつ植物・動物のなかから、より多くの空気を含む構造をもち、断熱効果のある「毛」を利用して寒さをしのいできた先人たち。日本ではワタから木綿わたが使われ、西欧では家畜した羊の毛からウールわた、食用のための水鳥の毛から羽毛わたが使われてきました。はるか昔、織物の技術ができる前に、人類最初の衣類が毛皮だったことを思うと、私たちが寒さをしのいで暖かくしていられるのは、昔からいろいろな生きものたちのおかげだと改めて思います。
※上着:水鳥の毛(NANGAダウン)、下もんぺ:羊の毛(ウールもんぺ)
いろいろな生きものの「毛」からつくられる「わた」。企画展「わたから見えるネイティブスケープ展」ではいろいろな「わた」の素材の展示や、羊や水鳥、綿のわたを使った商品を取り扱っています。ぜひ、触り、まとい、手触りや着心地を比べて楽しんでみてください。
参考文献:
森和彦・松下隆ほか『地域資源を活かす 生活工芸双書 棉』 農村漁村文化協会 2019年
保谷彰彦 『生きもの毛辞典』 文一総合出版 2022年
日本ふとん製造協同組合(JFMA)「ふとんの知識 もっと「ふとん」に詳しくなろう!」
繊研新聞(2017/2/4)「ウールの物語③冬も夏も、の万能選手」