江口人形店(弓野人形)
佐賀県武雄市弓野地区は古くから窯業が盛んで、弓野焼や弓野人形などの焼物が作られていました。弓野人形は、博多人形師によって誕生します。人形師の原田亀次郎が博多人形の完成された美に飽き足らず、九州各地で修行したのち弓野に移り住み、1882年に作った土人形が始まりとされています。その後旅籠屋江口家の婿養子となり「江口人形店」を開業します。当初は博多人形に近い作風でしたが、次第に親しみのある素朴な人形へと変化し、胡粉を厚く塗ったぽってりとした形と鮮やかな彩色が特徴です。伊万里で紹介した節句人形が評判となり、県内では雛祭りには弓野人形を飾る風習が定着、やがて全国へと広まります。原田亀次郎は時代の流れとともに、弓野人形の製法と意匠を改善し、原料の精選や職人の養成に努めました。現在4代目の江口誠二さんは、県窯業試験場や長崎県波佐見で技術を学んだ後3代目江口勇三郎さんの元で修行を積み、技術を継承し制作にあたっています。
■ 歴史:ひな祭りに家庭で飾る人形として定着 グリコのおまけにも
江口人形店は原田亀次郎が旅篭 (はたご) 若松屋の婿養子に入ったことから始まりました。博多人形を5年ほど修行した亀次郎は、博多人形の「作られた美」に満足できず、九州の各地に修行に出ていました。そして修行の途中に立ち寄った貴船神社前の茶店が縁となり、弓野の造り酒屋だった奥川権左衛門の家で、土人形を作ることになります。亀次郎の腕を見込んだ同地の旅篭・若松屋の主人、江口友三郎は、彼を長女マサの婿養子に迎え、「江口人形屋」が始まりました。節供人形や床の間の置物の土人形、子供用のハト笛などが本格的に売られ始めると、佐賀県内ではひな祭りに弓野人形を飾るという風習が定着します。最盛期の明治中期には、九州全域、京阪神、全国へと広まり、昭和初期には、同じ佐賀県の出身者が創業者であるお菓子メーカー、江崎グリコから依頼を受け、商品のおまけとして配布する人形を生産しました。現在の需要は減少しましたが、西川登町にある数事業者がその技術を継承しています。
■ 素材・技術:人形の表情が決まる目の絵付け 原料には九州産の粘土
弓野人形誕生の当初は、洗練された博多人形に近い作風が特徴でしたが、次第に親しみのある素朴な土人形へと変化してきました。現在では、数百種類もの多彩なデザインの型が存在しています。原料は、福岡県南部の辺りの原土です。製作工程には、型に土を入れる成形、乾燥、焼成、絵付けがあります。まずは粘土を加工し、こね、石膏型に土を押し付けるようにして延ばし成形します。そしてこの型でとった表面と裏面を合わせて立体にします。この前後2つの型を合わせて成形する工程が、弓野人形の大きな特徴です。ヘラで彫刻を施し、人形やお面などの原型を作ります。乾燥させた後は、薪窯で素焼きをし、胡粉を厚く塗って全体を真っ白に塗ります。仕上げに、水性または油性の絵具で丁寧に人形を彩色すると完成です。絵付けで人形の表情が決まるため、顔、特にどんな目にするかを決めないと、全体の絵付けができないほど、最も神経を使う工程なのだそうです。
■ 思想:歴代の型を継承 人形作りの技は見て盗む
弓野人形は博多人形の流れを汲むこともあり、古い型はおいらん人形や武者人形など大型のものが多いですが、今は小さなサイズの人形が主力です。初代が節句、仏像、2代目が玩具、貯金箱などの型を作り、現在はあまり新しい型は作らず、先代の型を使用しています。3~12月の間は面作りが忙しく、その合間に人形作りをしているそうです。4代目の江口誠二さんは、小さい頃から美術や創ることが好きで、造形 (美術) 系の大学に行くことが夢でした。しかし、大学進学は家族から反対され、高校卒業後すぐの1882年、家業の道に入りました。まずは有田の窯業試験場や長崎の波佐見でやきものの型作りを学び、その後父・3代目江口勇三郎さんから技を受け継ぎます。しかし、人形づくりを教えてもらったことは一切なく、「私の代で失くしたらいかん」と技を見て盗むことで続けてきたと言います。人形づくりには、伝わる技法よりも自分で人形づくりをものにする経験が大事、と誠二さんは話します。
※あくまでもうなぎの寝床が解釈する、つくりてのものづくりへの思いや思想です。
参考文献:江口人形店 公式HP、佐賀県産業労働部 流通・貿易課「弓野人形」、草の根工房・日本全国郷土玩具バーチャルミュージアム「日本列島・全国郷土玩具の旅 佐賀県篇・第1回」、ピースクラフツSAGA「弓野人形の明治から今に続いてきた技を守る江口人形店の江口誠二さん」、佐賀新聞「工房を訪ねて 江口人形 (武雄市西川登町) 江口 誠二さん (64) 県郷土民芸品・弓野人形窯元 健やかな成長願い込め」
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