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田川産業

（漆喰メーカー/福岡県・田川市）

https://shirokabe.co.jp/

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1924年創業の漆喰メーカー。原料石の窯から最終製品に至るまで一貫した製造設備を持っています。福岡県田川市は石炭と石灰に恵まれた土地で、石灰資源の応用と漆喰の技術開発を中心に、革新的な製品を作り出しています。漆喰とは石灰に海藻や植物繊維など自然素材を複合したもので、主に建築資材として使用。呼吸する壁と言われており調湿・消臭・抗菌・不燃性という優れた特性を発揮します。1964年には日本で初めての既調合漆喰を開発し、全国の重要文化財をはじめ多くの住宅にも採用されます。時代の流れを受けて徐々に市場は減少しますが、有害物質を使わずむしろそれを吸着する効果のある漆喰が注目され、漆喰ボード製作の依頼を受けます。数年にわたり研究を続け、水を使わずに高圧で固めた焼かない漆喰タイル「ライミックス」の製造販売をスタートさせます。伝統的建材である漆喰の素晴らしさを伝えるとともに、新たなプロダクトを生み出し、国内外へのさらなる普及を目指しています。

■ 素材：漆喰の主原料は石灰石呼吸する壁で消臭効果

漆喰の主原料は、海中のサンゴや海洋生物が長い年月をかけて堆積・地層化してできる「石灰石」です。日本で唯一の自給可能な鉱物資源で、建材、農業、製鉄業、化学産業など幅広い分野で利用されています。石灰石（炭酸カルシウム:CaCO3）を高温で熱すると、透明感がなくなり、白っぽい色の生石灰（酸化カルシウム:CaO）になります。これに水を加えると、蒸気を発しながら石状から砕けて粉状の消石灰（水酸化カルシウム:Ca(OH)2）に変化します。こうした化学反応で得られた消石灰と、ツノマタや銀杏草などの糊、麻や藁などから得られる繊維状のスサを混ぜると、漆喰の完成です。糊は保水性があるため壁に美しく漆喰を塗る作業時間を確保、スサは漆喰が乾燥する際にひび割れを防ぐとともに、細かい繊維が分散して強度を上げてくれます。漆喰は、多数の穴が開いている多孔質のため臭いを伴う水蒸気を吸ったり吐いたりしてくれること、さらに強アルカリ性であるため特に酸性のにおい（汗、生ごみ、排水溝、ホルムアルデヒド等）に対して消臭効果があるとされています。

■ 技術：数千年もの間続いた常識を打ち破る、技術開発

半世紀以上もの間、漆喰メーカーの中で先頭を走り続けてきた田川産業。漆喰は過去、左官職人が原料を調達、配合して自身で作るものでした。それを日本で初めて工業製品化し、誰でも扱えるようにしたのが田川産業です。高さ約10mの窯に原料の石灰石と燃料のコークスを入れ、伝統的な塩焼きという方法で消石灰を生成し、骨材、麻の繊維、海藻を主体とする粉末を機械で混ぜて漆喰を作っています。また、田川産業が生み出した不焼成漆喰セラミックの漆喰タイル「Limix (ライミックス)」は2009年「第2回ものづくり日本大賞」の最高賞である「内閣総理大臣賞」を受賞。「漆喰は水で練って塗る」という数千年の常識を打ち破り、独自の真空高圧成形技術と炭酸化固化技術の開発によって、焼き固めると無くなってしまっていた「呼吸する」という機能を残しつつ、高強度で壁や天井だけでなく、床にも使用できる漆喰セラミックという新たな素材を開発しました。さらにタイル状に加工することで、日本家屋や町家以外でも施工しやすく、様々な色や質感に対応できるというデザイン性も評価されました。

■ 歴史/思想：現代人とエコを繋ぐ再注目の転機となったシックハウス症候群

日本では高度経済成長を機に、漆喰市場は縮小傾向に向かいました。以前の日本の住宅は、風通しの良い造りでしたが、省エネルギー化に向けて高気密、高断熱化が進んだことで、人工建材や日用品から揮発する化学物質が室内に充満するようになってしまいました。それらを取り込んだ人体に「シックハウス症候群」に代表されるような鼻やのどの刺激症状、頭痛や倦怠感などの健康被害をもたらされます。しかし消費者の健康意識が高まったことで、漆喰や珪藻土が再注目を浴びることになりました。1999年には、田川産業の行平信義社長らをはじめとした漆喰関係者で漆喰工業会（現・日本漆喰協会）を設立。漆喰の可能性を追求し、現代にも有効な素材だということを証明するべく、さまざまな側面から研究し、定量的な評価ができるよう取り組んでいます。このように独自の進化をしてきた田川産業は、これからも環境への負荷低減に配慮した住環境の提案をしていきます。

※あくまでもうなぎの寝床が解釈する、つくりてのものづくりへの思いや思想です。

■ 土地性：日本の近代化を支えた、黒いダイヤと白いダイヤがある筑豊

古生代には温かい海のサンゴ礁であったプレートが地殻変動で移動、隆起した地層が、現在の筑豊地方には広がっています。そのサンゴの主成分である炭酸カルシウムの堆積物が、漆喰の主原料である石灰岩です。さらに新生代には海産貝類や植物が厚く堆積し、植物が炭化してできた石炭を含む地層も点在しているところが、筑豊地方の特徴です。筑豊で石炭が最初に発見されたのは、1478年だといわれています。その後も明治時代から1950年代にかけ、田川産業が拠点を置く田川市を含む筑豊地方は国内最大の産炭量を誇る「筑豊炭田」と呼ばれ、明治時代以降の日本の近代化を推し進める原動力として名を馳せました。当時、国内から供給できるエネルギーである石炭は蒸気機関の燃料や製鉄の原料に、石灰はセメントの原料として利用されました。このように「黒いダイヤ」と呼ばれた石炭と、「白いダイヤ」と呼ばれた石灰が共に採れる筑豊だったからこそ、漆喰という産業が発展したのかもしれません。