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「もんぺ」とはなんぞや。日本化されたズボン型洋服(2016. 5)
1941年11月号の『服装文化』。
スタイルの提案とともに、裁縫できる裁断図が載っている。当時は衣服は自分で作るのが当たり前だった。
“Fashion Culture” magazine from November, 1941.
They introduce style as well as cutting drawing so that women can make their own clothes.
戦争真っ只中に制定された「婦人標準服の活動衣」。
革命的な便利さと着心地で「日常着=もんぺ」に。
着物をほどいて作れるように。戦時中の活動衣。
「もんぺ」と聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか?世代にもよるかもしれませんが、戦時中の女性が穿いていたイメージや、田舎のおばあちゃんが農作業で着ているイメージなどが強いかと思います。現代からするとそんな古くさい印象のもんぺですが、実は当時の日本人(特に女性)と衣服の関係に大きな影響を及ぼした画期的な存在でもありました。そもそも「もんぺ」とは、太平洋戦争の総動員体制の中、男性用に制定された『国民服』を補完する形で、1942年に制定された女性用の着衣のガイドライン『婦人標準服』の中で発表された「活動衣」です。
男性用の国民服は、当初はデザイン運動と連動した「日本的」な服装を確立するという目的がメインで、あくまでもそれを軍服にも転用するという形でしたが、最終的にはほぼ軍服と変わらない形で1940年に制定され、戦争の象徴として人々の記憶に残ることになりました。対して女性用の婦人標準服は1942年に厚生省によって制定され、洋服型(甲型)・和服型(乙型)・活動衣の3種7パターンが発表されましたが、国民服と違って婦人標準服には軍服的な要素は少なく、むしろ軍用の繊維・布の確保という意味での「被服資源の確保」が目的だったため、いかに新しい布を使わずに作れるかに焦点があてられました。当時は女性が家族の衣服を自ら仕立てるのが当たり前。「うなぎの寝床」の図書館にもある、大日本婦人服協会によって発表された『婦人標準服の基礎図説(講習教材)』の原本には、着物をほどいて反物の状態から衣服に仕立て直せるよう、詳細な裁断図が載っています。
普及した「もんぺ」。革命的な暖かさと動きやすさ。
しかし婦人標準服の洋服型・和服型の形はほとんど普及せず、なぜか活動衣として制定された「もんぺ」だけが広がります。東北の農村地帯などで昔から着用されていた「股引」や「山袴」など、着物の下に穿くような野良着はそれまでも存在しており、もんぺもそこから着想を得たといわれていますが、当時の女性にとって「ズボン型衣服」はもんぺが初めてでした。そのためか足が分かれることやお尻の形が見えることなどに対し、当初は「かっこ悪い」「恥ずかしい」という反応も多かったようです。それが空襲など戦火が迫りくるようになった1943年には、暖かくて動きやすいというもんぺの利便性が、女性たち自身によって認識されるようになり急速に広がっていったといいます。国は当然、婦人標準服の普及を進めようとしていましたが、下記の文章にも残っている通り、町の様子は簡単には変わりません。
「街頭にズボン穿きの女性が増えてきた。燃料不足の折柄温かいといふこと、弱くて高い靴下の消耗が防げることなどの実用性からにも違ひないが一つには若い女性の間の戦時流行であることも否めないと思ふ。・・・普及策を講じないと着ない婦人標準服と、誰も奨励しない中に女性自身実践に移してしまつたズボンと、大変面白い問題が含まれているやうに感じられる。」(『衣服研究』大日本国民服協会、1943)
明治以降の日本は「西洋式の生活様式」と「日本式の生活様式」が織り交ざり、例えば外ではスーツを着て、帰宅後には和服を着ていたりするような「二重生活」だったといいます。太平洋戦争で西洋文化との隔絶があった時代において、「もんぺは洋服と距離を取った洋服では無い衣服という、イメージの流行でもあった」という捉え方もあるようです(井上雅人著『洋服と日本人』より)。
もんぺを穿く女性像。和と洋の融合した日常着。
かの有名な黒澤明監督は、戦前と戦後に系統の違う二つの作品を描いています。一つ目は1944年の『一番美しく』。そして二つ目は1946年の『わが青春に悔なし』です。前者は戦争肯定のプロパガンダ映画でしたが、後者はその贖罪的な意味も含んだ民主主義啓蒙の映画だったそうです。興味深いのはこの両方の作品において、主人公の女性が穿いているのが「もんぺ」であること。『一番美しく』では主人公役の矢口陽子さんが「国家に対して勤労な女性像」を、『わが青春に悔なし』では原節子さんが「家族に対して勤労な女性像」を演じており、いずれももんぺが「労働」や「勤労」の象徴として扱われているといえます。
男性用の国民服(軍服)は戦後は誰も着ることはなくなりますが、もんぺは戦争が終わり価値観も変化していく中でも、生き残ったことが分かるのです。これはもんぺが単純に国家権力による強制だったわけではなく、当時の人たちにとっても新しい形の衣服として受け入れられたことを示しているのではないでしょうか。特に当時の女性にとっては、初めての「ズボン型衣服」ということで、身体感覚と体の認識も大きく変わったのではないかと思います。その便利さと着心地の良さにやみつきになり、戦後は農作業着として全国に広く普及し、久留米絣の織元でも高度成長期の頃まではもんぺ用の生地が多く織られていたと聞きます。日本の伝統工芸のルーツは海外にあることがほとんどですが、もんぺもまた西洋式の「洋服」と日本の「山袴」「股引」という異なる文化の融合であったのは面白い発見でした。様々な時代の葛藤を経て、日本化された「日常着」だったのです。渡邊∈(゜◎゜)∋ ウナー
「婦人仕事袴 – 防空に備えて」(服装文化1941年11月)
“Women’s traditional pants (Hakama) – For air defense” (Fashion Culture Nov, 1941)
厚生省制定『婦人標準服の基礎図説』ー甲型・乙型・活動衣が載っています。
the national guideline “Standard Clothing for Women” in 1942
『婦人標準服』の活動衣の裁断図。
MONPE pants from the “Standard Clothing for Women” in 1942
参考文献『洋服と日本人』。当時の人々の生活や考え方に思いを巡らせ、衣服がどう捉えられていたのか、変わっていったのか論じている。
“Clothes and the Japanese” – the Mode of Standard clothing by Masato Inoue
現代風もんぺ
Re-interpreted modern MONPE pants
男性用の衣服を制定した『国民服令』
“Standard Clothing” for men during the war
『国民服令』の中で紹介される軍服の作り方。和服型・洋服型がある。外套も。
Clothing of men during the war – there are Japanese style patterns, Western style patterns and jackets.
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