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【織元インタビュー #9】 久留米絣の定義を考えることは、未来を考えること。ルーツを汲みながら、新たな布作りへ。/ 宮田織物(2019. 5)
このコラムは、「第9回 もんぺ博覧会(2019年5月開催)」に付随した特集記事を転載しています。
久留米絣の定義をあらためて考えてみる
狭義と広義で、捉え方はさまざま
久留米絣の定義には、実は曖昧なところがあります。絣(かすり)自体は、糸を縛ることで柄をつくる技法のことですので、厳密にいえば、「くくり」の工程が入る絣模様のある生地のみが、久留米絣ということになります。
しかし、着物としての需要から洋服へと移行したために、久留米絣の産地では絣模様の生地以外にも、無地・縞・チェックなどの生地も多く織られています。あくまでも、久留米絣の特徴である80年前の小幅のシャトル織機で織られているので、現代の織物と風合いは違います。
では、こうした無地の生地は久留米絣なのか?狭義では絣(かすり)ではありませんが、久留米絣の織元で織られているのには違いありません。久留米絣の組合では、織元で織られたものは「久留米絣」というブランドを使うという広義の定義を使っています。
逆に、広幅の現代織機で、くくりなどで柄を染め分けた絣糸をつかった生地は、絣なのか?という議論もできます。よこ糸で緻密な柄を構築することはできませんが、たて糸に絣模様の入った生地は織ることができるからです。
狭義の絣(かすり)と広義の絣(かすり)。細かい条件を決めて、狭義で定めることは簡単ですが、そうすると時代に合わせた変化や新しいチャレンジを阻害することにもなりかねません。かといって広くしすぎても、久留米絣のアイデンティティを失いかねません。
本当に残したい久留米絣の本質はなんなのか。進化を考えて行く上でも、残すべきところと変えるべきところを、それぞれが考えて行く必要があるなと、今回のインタビューを通じて感じます。
元・久留米絣の織元が
綿入れ袢天をつくるまで
そうした進化のヒントや、久留米絣の定義について考える上で、筑後にある宮田織物は貴重な存在です。というのも、宮田織物は「元・久留米絣」の織元だからです。1913年に宮田サカエさんが創業し、息子の宮田智さんが引き継ぎました。
しかし絣の需要に陰りが見え始めてすぐ、智さんは一大決心をします。1958年、それまでの着尺用の小幅織機から、洋裁用の広幅織機へと移行するのです。
「米国産の綿花を使って、ブラウスの生地やブリジストンのタイヤコードに使われる綿布などを作りました。20代でまだ若かったでしょうが、私も。時代もそれいけそれいけの頃で、気持ちも大きかったんですね。」
智さんは綿織物の産地としての久留米絣のルーツを汲み、その後の宮田織物の代名詞にもなる「綿入れ袢天」の製造を1975年から始めます。大人気商品となり、1980年代には年間55万枚もの袢天を販売したそうです。
しかし繊維産業が海外へ次々と移転していき、宮田織物も苦境にたたされる中、3代目で現社長の吉開ひとみさん(58歳)は、綿100%の生地を主軸におき素材にこだわった袢天や洋服を、一貫生産で展開しています。
「毎年毎年消費されるような服ではない、長く愛される服に特化していきたいと思っています。父のはじめた袢天は、そのお手本のようなものです。」
先染めの綿織物として、
長く愛される服をつくりたい
宮田織物で現在活躍する織機は、レピア織機と呼ばれる現代織機で、先染めの糸を使い、組織織りと呼ばれる技法で、綜絖を複雑に動かしながら、他にはないようなオリジナリティのある生地を生み出してきました。大きな織物工場でありながら、手仕事に近い細やかな作業もいといません。
「うちのアイデンティティは、やはり天然素材のほぼ綿であること、糸が先染めであること、そしてゆらぎの柄があることだと思っています。ここには久留米絣のルーツも感じています。」
とはいえ、これまで作りためてきた生地在庫は増える一方で、きちんと利益を生み出せる仕組みを作っていかないと先が厳しいという危機感を、吉開さんは感じているといいます。そんな中、最近は社内の若手が袢天だけではなく、外にも着ていける「羽織」に力を入れて開発・展開をはじめており、心強く思っています。
「小さい頃に服を作ってもらったり、手芸をしたときの楽しさが私自身の原点になっています。いまの役目はひとえに、社員のやる気を後押しし、ものづくりは楽しいと思える環境を整えていくことだと思っています。」
久留米絣のルーツも引き継ぎながら、新しい業界へ進んだ宮田織物のような会社があるのも、この産地の面白さの一つです。実際にうなぎの寝床の「ストレッチもんぺ」は、板締めという方法で先染めの糸でくくりに近い模様をつけた生地に、ポリウレタン2%をよこ糸に使った生地を宮田織物さんと開発し、新しいチャレンジを一緒に行いました。今後こうした多様性が、綿織物の産地としての強みになっていくことを願います。渡邊
◎宮田織物株式会社
〒833-0003 福岡県筑後市羽犬塚375
0942-53-5181
Photo credit: Koichiro Fujimoto
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