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【織元インタビュー #5】 よこ絣・たて絣・たてよこ絣。くくりが失くなってしまったら、もはや久留米絣ではない。 / 野村織物(2019. 5)

このコラムは、「第9回 もんぺ博覧会(2019年5月開催)」に付随した特集記事を転載しています。

見分けるポイントは、模様のかすれている方向!
絣(かすり)の要、くくりの種類。

久留米絣は、糸を縛ることで柄をつくる技法です。その柄にも実はいくつか種類があります。
中島みゆきさんも歌っている通り、織物には「たて糸」と「よこ糸」があります。長く張ったたて糸の間を、よこ糸が行ったり来たりすることで構造が生まれ、糸から布へと立体的な形を成すのです。

織る前の段階で、糸を縛って染めて、白く残ったところが柄になる絣(かすり)の場合、たて糸を縛るのか、よこ糸を縛るのか、はたまた両方とも縛るのか、いくつかオプションが出てきます。

たて糸だけをくくった場合は「たて絣」と呼ばれます。縦方向にかすれた模様があらわれるのが特徴です。逆によこ糸だけをくくった場合は「よこ絣」と呼ばれます。同じように横方向にかすれば模様があらわれます。英語で絣はイカット(ikat)といいますが、「たて絣」もしくは「よこ絣」はシングルイカット(single ikat)といいます。

ではたて糸とよこ糸の両方を縛る「たてよこ絣」だとどうなるのか。染め分けて白に残った部分が重なり、真っ白な模様が浮かび上がります。しかしその分、柄が綺麗に重なるように織っていかなければいけないため、手織りでも機械織りでも、技術が必要です。

ちなみにご想像の通り、英語で「たてよこ絣」はダブルイカット(double ikat)と呼ばれます。ダブルで縛る、という意味です。生地をよくよく観察してみれば、縦方向にも横方向にもかすれ模様があるので、見分けられるようなります。

現在久留米絣の機械織りの織元では、絣の生地ももちろん織られていますが、無地や縞やチェックなど、糸をくくる工程を含まない生地も多く生産されています。

それはそれで、シャトル織機の風合いとやわらかさがあり、魅力的ですが、やはり久留米絣の本質は「くくり」であるという方も大勢います。

正統派の織元として
高難度のたてよこ絣の機械織

そんな機械織の織元の中でも、しっかりと柄を構築する正統派として知られるのが野村織物です。もんぺ博覧会にもずっと参加していただいている、1898年の創業の老舗織元です。八女市のお隣の広川町の織元で、1953年に2代目が本家から独立し、軍需工場だった現在の土地で再スタートを切ったのだそうです。

4代目の野村周太郎さん(44歳)は、東京の大学を卒業後、大手自動車会社の法人営業として勤めていましたが、公務員を目指す兄が家を出ることになり、2003年、26歳のときに家業を継ぐ決意をします。

「今思えば、経営状態や久留米絣業界の現状について、何も知らなかったからこそ戻ってこれました」

帰ってきた頃は、ちょうど時代の変わり目で、洋服まで作り販売に力を入れる織元も増える中、2代目の祖父の「織元たるもの、生地を作ってなんぼ」という方針を踏襲し、自社商品は最低限にとどめて生地を作ることに専念します。高難度のたてよこ絣も多く生産し、付加価値の高い久留米絣にこだわってきました。

この3年の変化についてインタビューでお聞きすると、野村さんにこの数年は厳しい・きついことも多かったと話してくださいました。父・哲也さんから経営を引き継ぎ、経理や人事などにも携わる中、ベテランの職人の高齢化などにより人材不足が深刻化。

若手の人材の入れ替わりも激しく、生産が大幅に落ち込んだ時期もあったそうです。いまは7割にまで生産は取り戻していますが、まだまだ課題は山積みだといいます。

続けるためには人材がネック
くくりも織りも、いまが過渡期

実はいま久留米絣の業界は、1社だけの問題ではない、大きな困難に直面しています。分業制である機械くくりの技術継承の問題です。

「昔はくくり専門の職人も大勢いたけど、いまは組合で職人を雇い共同で維持しています。ベテランの職人が高齢で辞め、効率や工賃も以前のままとはいかず、いままさに過渡期。でもくくりは久留米絣の要なので、何があっても残さなければいけないんです。

技術と時間のかかる絣生地だけではなく、効率化を図るために、無地用の機械も導入しはじめてはいるものの、野村織物の主力はあくまでも絣です。特に定番で常時つくるリピート柄が2割強しかなく、毎年60~70パターンほど新柄を受注しているため、くくりも含めた生産体制の整備は死活問題なのです。

うちの強みは仕上がりのクオリティだと思っています。精密機械で作ってるわけではないからこそ、丁寧さが求められますが、緻密な柄と傷の少ない綺麗な仕上がりを追求してます。」

機械織とは名ばかりで、手作業の工程も非常に多い久留米絣。着物であろうが洋服であろうが、製品にする人が使いやすく、着る人が欲しくなる、高付加価値の「生地素材」としてしっかり伝えていきたいと、野村さんは話してくれました。渡邊

◎野村織物有限会社
〒834-0115 福岡県八女郡広川町新代1745
0943-32-0018

 

Photo credit: Koichiro Fujimoto

 

 

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