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【なべリサーチ日記】 文様とはなにか。(2020. 4)
ずっと調べなきゃと思いながら、滞っていた数々のテーマがある。
最近あらためて認識した自分の特性として、こうして何かしらのテーマを定めて調べて文章にしないと身にならないことをつくづく感じたので、せっかくだからリサーチ日記として記録を残してみることにした。
第一回目のテーマは「文様」。うなぎの寝床にきて久留米絣と出会ってから、なぜここまでの手間をかけてわざわざ柄を生み出すのだろうか、と思ってきた。”代々続いてきたから”とか、”欲しいと思う人がいるから”とか、表層的な理由はもちろん明白で、価値があることだとは私自身も思っている。
だけど、もっと根本的なレベルで、人間がなぜこんな模様や技法を生み出したのか?とか、代々つかわれてきた文様はなぜ残ったのか?とか考え始めてしまう。すぐに答えが出る問いではないにしろ、考えるヒントが欲しいと思った。
文様は、まっさらな世界を切り分け認識するための言語
そこで手に取ったのが、海野弘さんの『ヨーロッパの装飾と文様』。冒頭はっとさせられたのは、「装飾 = パターン(Pattern)」という言葉の語源が、”父”であるということだ。パトロン(Patron)も同じ語源だといい、守護や権威づけの意味がある。
本来この世界には最初から決められた境目があるわけではない。土に線を引くから、あちら側とこちら側という概念が生まれ、名前がつけられる。うちにはよく喋る鳥がいるけれど、私が人間で向こうが鳥であることは、明らかなようで明らかではない。名前や分類とともに特徴が定義され、本質的存在に大きな違いがあると信じているだけかもしれない。
人類が最初に描きはじめた平面装飾は、洞窟の壁画などでも見られる人間や動物だった。自分たち自身のこと、そして身の回りの生き物のことを、理解しようとしながら可視化するプロセス。その過程では、本質的な特徴をつかみ、分類し、存在の認証を与えるという行為が発生する。これこそがパターンの語源でもある、権威や守護とも繋がってくるのだろう。
海野氏は、文様はそういう意味で、言語と同じだと記している。まっさらな状態のこの世界に、線を引き、名前をつけ、認識するためのツール。そしてそれは他者と共有され、共通の認識をもとに共同体の文化が形成されていくのだ。
二つの異質なものが出会うとき
しかし文様には、言語にはない特別な特徴がある。共同体を共有してない異文化にも、比較的簡単に伝播することだ。
言語は意味の共有に時間がかかる。音楽は旋律は取り入れることができても完コピは一瞬でできるわけではないし、楽器も土地や素材に縛られる。でも文様は写すだけですぐ再現できる。
分かりやすい例が「唐草文様」だ。日本でも伝統柄として親しまれている文様だが、その起源はなんと古代エジプトや古代ギリシャまで遡る。ペルシア・イスラム文化で”アラベスク”として発展し、シルクロードを通じてインド・中国へ伝わってくる。それが飛鳥時代、仏教伝来とともに日本へもやってきたのだ。
唐草文様がここまで凄まじい伝播力を持っているのは、”見立て”次第でどこの地域や民族でも、自分たちの文様にできたからだという。異国からきた文様をみて、身の回りの植物や形におきかえ、別の名前をつけ、代々伝わっていったのだ。変異できる余白があったからこそ、人類共通言語になってしまったわけだ。
もう一つ、目から鱗だった視点がある。
文様そのものも、二つの異なるものが出会って作られるということ。たとえば縄文土器は、土に縄を押し付けて模様が作られる。畑の畝は、土と農具が接して作られる。刺青は、肌に墨などで着色することで入れられる。
そういう意味では、文様を作り、ツールとして使い、広げていくのは、人間の性なんだろうと思う。なぜなら、食べて子孫を増やして命を全うするだけであれば、わざわざ文様をつくる合理的理由はないから。好奇心を持ち、自分と他者を理解しようとし、コミュニティと共有する社会的生物としての特性があるのだろうと思う。
同時に、国を超え、時を超え、はるかなる旅をしてきた文様という人類の共通言語を、次の世代でも引き継いで楽しむことができるように、なぜなのか?はっきり意味は分からずとも、やっぱり継承していくことには意味があると感じる。今日はここまで。渡邊 ∈(゜◎゜)∋ ウナー
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