【企画展】研磨した木は人の肌に近い。独楽はコミュニケーションのためのツール。独楽産業の現状と次世代に繋げたい思い。

【企画展】研磨した木は人の肌に近い。独楽はコミュニケーションのためのツール。
独楽産業の現状と次世代に繋げたい思い。

九州の大動脈、国道３号線沿いに独楽工房隈本木工所はあります。この地で八女独楽やけん玉を作り続けて120年。記録で分かっているだけで120年なので実際はそれよりも前からかもしれません。隈本さんの気さくなお人柄のせいかいわゆる老舗の重厚さや仰々しさみたいなものは感じられないですが120年続いていること自体が凄いことだなと思います。時々古い資料や昔の道具が出てくるそうです。先日、そんな隈本木工所を訪問しお話を伺ってきました。

もともとモノづくりが盛んな八女地方。隈本木工所がある八女市吉田だけでもコマ屋さんが５、６件はあったとか。多い時には独楽を卸すために、かます（袋の一種）に大量の独楽をどさーっと入れて運んでいた時代もあったそうです。今では想像もつかないですがそれだけ需要があったんですね。
テレビゲームの登場などで子供達の遊びも変わりコマ屋さんが次々と姿を消して行きました。八女独楽、博多独楽を作っているのは国内で唯一ここだけ。今や独楽遊びを知らない世代が親になり、日本から独楽文化がなくなってしまうのではないか？隈本さんは危惧されています。技術を伝える後継者がいなくなるばかりでなく、原材料の高騰や鉄芯を作る業者の廃業など材料の入手さえ難しくなっています。廃材の処理問題もあります。かつては牛を飼っている畜産農家が木屑を必要としていたのでうまく循環できていましたが今ではそれも難しくなっています。ゴミを捨てるのにもお金がかかってしまう時代です。

ほのぼのとした木のおもちゃからは想像がつかないほど、独楽を取り巻く状況はかなり厳しいです。そんな中でもいつも子供達に寄り添い、なんとか日本の独楽文化を守ろうと、隈本さんは常に企業努力を惜しみません。伝統だけにしがみつくのではなく、初心者向けの「ラクコマ」や、赤ちゃん向けのおしゃぶりなど年齢に合わせた玩具づくり、そして３Dプリンタを導入したことで、螺旋状など従来のろくろでは不可能だった形状の玩具製作を可能にしました。3Dプリンタはセットすると後は自動で動くのでその間他の作業ができるようになったと、隈本コマ期待の新入社員サナダ君が説明してくれました。
材料は大人向けの一部商品を除いてすべて国産。７、8年くらい前からは九州産のものに絞りました。赤ちゃんがなめても安心な自然塗料と出所の分かる国産の木材です。産地は八女や熊本の人吉など。国内の林業も厳しい状況ですが、材料調達に協力してくれる木材屋さんや造園業者さんの存在があります。

「研磨した木は人の肌に近い」

お話を伺った際の隈本さんの言葉が印象的でした。そのままではごつごつしていて、時にはトゲが刺さってしまう木材に人が加工を施すことで赤ちゃんや子供に安心して与えられるおもちゃに変わります。研磨した木は人に優しいです。オブジェとして部屋に飾っても良さそうです。
さらに、「独楽はコミュニケーションのツール」であると隈本さんは仰います。コマ回し体験に参加する子供達はなかなか帰りたがらないそうです。うまく回せなかったら、”どうやったら回せるのか”を考え、コツを覚えて成功できた時の感動はひとしお。できるようになったら今度はできる子ができない子や小さい子に教えることでコミュニケーションが生まれます。子供だけでなく大人も意外と夢中になってしまうので、親子３世代、いや４世代くらいで楽しめるのではないでしょうか。企業でコマ回し大会なんてのも案外面白いかもしれません。
衣食住事足りて何の不自由もなく、ネットで物も情報も欲しいものがすぐに手に入る良い時代。本当に素晴らしい時代です。しかしながら私達は日々、何かよくわからない物足りなさを感じ、枯渇している気さえします。価値観はもちろん人それぞれ。断じてゲームやネット社会が悪いわけではありません。しかし、隈本木工所には足りていない何かを補う何かヒントみたいなものがあるのではないか？そんな気さえしました。鬼木