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【#4】 地域に根ざしたゴム靴メーカー 後編 / 技術から見るムーンスター UNADIGTIONARY vol.4

前編「ムーンスターから見るNATIVESCAPE」では、ゴムのまち久留米で、ムーンスターが学校指定靴や専門職用の靴などを作り続け、現在の「MADE IN KURUME」などのスニーカー作りへと繋がってきたムーンスターの「NATIVESCAPE」について紹介しました。後編「技術から見るムーンスター」では、現在までに培われてきたムーンスターの靴生産の技術ゴム加工技術について紹介したいと思います。

前編「ムーンスターから見えるNATIVESCAPE」はこちら


目次
◯ ムーンスターのゴム加工技術
◯ ムーンスターの4つの製法
1. ヴァルカナイズ製法
2. インジェクション製法
3. セメンテッド製法
4. シナジークラフト製法
◯ 専門職向けの靴つくりから生まれた810s
◯ おわりに
◯ 踵(かかと)を踏むべからず

ムーンスターのオンライン販売はこちら

                                                                                                  photo / Koichiro Fujimoto

ムーンスターのゴム加工技術

ムーンスターの靴の話をする上で、欠かせないのがゴム加工技術についてです。自社で靴それぞれに使用する最適なゴムの加工ができるのがムーンスターです。ではまず、ゴムの加工技術について紹介します。

ゴム加工技術を有しているからこその靴づくり

前編でも紹介したように1873年に座敷足袋製造から始まったムーンスターは、地下足袋製造を経て1925年に運動靴やゴム長靴を開発し、その技術は常に更新され、現在のスニーカー製造に活かされています。学校指定靴を作り続けてきたことから社内の品質基準が高く、また、地下足袋製造を開始した時から向き合い続けてきたゴム加工技術を有しているからこそ、靴の種類に応じて使用するゴムを加工することができます。ゴム加工の技術は学校指定靴や専門職用の靴、スニーカー製造など全ての靴に活かされています。

ムーンスターのスニーカーや靴に使われているゴムはほぼ全て自社内で配合・加工されたものを使用しています。靴の用途、靴が使われる場所や環境などを考慮し、靴のどの部分にどのゴムを使うか、それぞれにあったゴムを作るための配合比率、混ぜ方、熱を加える工程での温度との相性などを試行錯誤して使用するゴムを加工することができます。ゴムには「天然ゴム」と「合成ゴム」があり、顔料や硫黄などの薬品を混ぜて作られます。天然ゴムと合成ゴムを練り機で混ぜ合わせ、更に薬品を入れて混ぜ、粘土のように柔らかくなったゴムをローラーでシート状に伸ばして使用します。シート状にするまでに何回練るかは測定機によって管理され、最後は職人の手触りの感覚で決められます。
長年培われてきたノウハウと独自の研究開発によって、様々な種類の靴に対応出来るゴム加工を行ってきました。これまでにご紹介してきた、学校靴や専門職用の靴、官公需向けの革靴など、それぞれの環境にあった靴を作り続ける為にゴム加工の技術は欠かせないもので、現在の長く快適に履いてもらえるスニーカー作りにも欠かせないものとなっています。ムーンスターのゴム加工の技術は靴に使用されるゴム以外にも、ゴム製の工業用品やゴム手袋、ゴム成型品などにも用いられ、現在はグループ会社がこれらの部門の研究・開発・製造を行っています。

                                                                                                  photo / Koichiro Fujimoto

ムーンスターの4つの製法

うなぎの寝床では、ムーンスターの技術をご紹介できる4つの製法で作られた靴を取扱いしています。その4つの製法とそれによって作られている靴をご紹介します。

【ヴァルカナイズ製法】
多くの職人の手を通り時間と手間を必要とする製法
120℃の窯で約1時間。窯入れされて出来上がる靴


靴のパーツ一つ一つを切り抜き、組み立て、貼り合わせる、など手作業での工程がほとんど。ひとつの靴が出来るまでに多くの職人の手が必要とされ、熟練した技術とノウハウが必要となる製法です。この作業工程中のゴムは生ゴムの状態で、切れやすくて伸びやすく扱いずらい状態です。多くの工程を経て組み立てられた靴は、最後に「加硫缶」と呼ばれる窯に「窯入れ」され「加硫」の工程へ。120℃の窯で約1時間ほど熱と圧力を加えることでゴムに混ぜられた硫黄分が化学変化を起こし、しなやかで丈夫なゴムになり靴が出来上がります。時間と手間を要するので量産は難しい製法で、国内でもごく僅かな工場でしか生産できません。

<特徴>
・ソールがしなやかで柔らかく、丈夫
・耐久性がある
・美しいシルエットが保てる

*熟練の手作業が必要な工程がほとんどなので、量産はできない
*製造工程の最後に「焼き物」のように窯入れされることから「SHOES LIKE POTTERY」のプロダクトが生まれる
*地下足袋製造がこの製法の源流となっている
*ムーンスターが培ってきた靴製造技術の代表的な製法

<靴の種類>GYM CLASSIC
1960年代に生産していたトレーニングシューズを再現した靴

ALWEATHER
キャンバス生地にゴムを貼り合わせた全天候型の靴

ALW SIDEGOA
キャンバス生地にゴムを貼り合わせた全天候型の靴のサイドゴアブーツタイプ

MUDGUARD
キャンバス生地にゴムを貼り合わせた全天候型の靴。ロータイプ

ARC SIDEGOA
ベーシックなスリッポンに三日月型のつま先ゴム

LITE BASKET
シルエットの柔らかい木型(ラスト)を使用して作られた靴。木型の作りが靴の印象や履き心地に影響を与えます。

JIKATABI
スニーカー作りのルーツとなった地下足袋をベースにして、スニーカー仕様で復刻した靴

LITE UBAL
トラディショナルなダンスシューズのような靴ひも。雰囲気のある靴


【インジェクション製法】
機械での効率化と職人の技術が融合した製法
足型の鋳造も自社内で

大がかりな生産設備が必要な製法。機械によってアッパー(靴の底から上の部分)とソール(靴の底)を直接成形・接着します。型に圧をかけながら接着させるため、靴底の曲線の再現性が高くフィット感が高くなります。靴の種類ごと、サイズごとに金型が必要となりますが、ムーンスターでは型の鋳造も職人が自社で行っています。また、アッパーとソールを直接接着するので、アッパーの縫い合わせの誤差がソールの成形不良に繋がってしまうため、縫製にも熟練の技術が必要となります。

<特徴>
・優れたフィット性とクッション性がある
・足に負担がかかりにくい
・耐久性がある

*量産が可能な製法
*ムーンスターが作り続けてきた厳しい基準を求められる学校靴にも採用されている製法で、上履きはこのインジェクション製法で作られている

<靴の種類>
RALY VUL(RALY)
量産型にしか活かされていなかった製法に独自のソール素材をプラスした、インジェクション製法の新たな可能性を見出した靴。アッパーにゴム引き生地や各部にゴムを使用し、ヴァルカナイズ製法とダイレクトインジェクション製法の特性を組み合わせたハイブリッド製法

LAZY
耐久性と快適性のあるスクールサンダルをモデルにした日常履きサンダル


【セメンテッド製法】
自由度の高いデザイン性と量産が実現できる製法

アッパーとソールを別々に作り、接着剤を使って貼り合わせ、加圧密着させる製法。構造がシンプルで作業工程が短く、自動機械での量産が可能で、多くのブランドの靴に採用されている製法です。ソールを削る高い技術は、ムーンスターの佐賀工場で行われています。

<特徴>
・軽くて柔軟性がある
・アッパーとソールのデザインに自由度を持たせることが可能

<靴の種類>
JG CUSTOM
学校履きとして使われていたジャガーの復刻モデル。当時と同じ木型を使用した靴。木型の作りが靴の印象や履き心地に影響を与えます。

JG MAXIM
1977年に発売したジャガーマキシムをベースにデザインされた靴


【シナジークラフト製法】
ムーンスターオリジナルの新しい製法
スニーカーと革靴の技術を掛け合わせた製法

ムーンスターオリジナルと言える新しい製法で、ムーンスターのスニーカー作りのノウハウと、官公需向けの革靴を作り続けてきた佐賀工場の技術を掛け合わせて出来た製法。アッパーとソールを直接縫い付けて足を包み込むように仕上げる革靴の製法であるマッケイ製法と、型に直接ポリウレタンを流し込みソールの成形とアッパーとの接着を同時に行うため足裏の形状を忠実に再現できるダイレクト製法を組み合わせます。この製法により、本来重い革靴ですが、スニーカーのような履き心地のよい快適な革靴が実現しました。

<特徴>
・従来の革靴に比べ軽い
・足裏の優れたフィット性
・足を包み込むような履き心地

<靴の種類>
GEN
つま先にゆとりのある木型を使用し、スニーカーのような履き心地を実現した革靴。チャッカタイプ

TANG
つま先にゆとりのある木型を使用し、スニーカーのような履き心地を実現した革靴。ロータイプ

上記でムーンスターの代表的な4つの製法について紹介してきました。
地下足袋製造が源流となる「ヴァルカナイズ製法」、高い品質基準を求められる上履き製造に用いられる「インジェクション製法」、学校靴や運動用の靴などに幅広く用いられている「セメンテッド製法」、スニーカーだけでなく革靴も作り続けてきたからこそ生まれた「シナジークラフト製法」など、私達が現在店頭で目にするムーンスターの靴は、これまでに培い続けてきたこれらの製法で作られています。ムーンスターの靴は比較的短期間の使用を目的とするファッション性のある靴やハイテクスニーカーとは違い、どちらかというとローテクのスニーカーで、定番で長く快適に履いてもらえるよう、技術とノウハウを駆使して作られています。

専門職向けの靴つくりから生まれた810s

学校指定靴や専門職用の靴作りをしてきたムーンスターの技術が、普段履きの靴として目に見える形で伝えられているものに810sシリーズがあります。次にこの810sの靴についてご紹介します。

腹八分のちょうどいい靴

ムーンスターは、料理人が厨房で履く靴や病院で看護師が履く靴、農作業、土木作業、軽作業用などの専門職用の靴を作ってきました。専門職用の靴つくりでは用途や仕事環境など、現場の声も取り入れながらそれぞれの環境に必要な機能が備わった靴を作り続けてきました。その専門職の靴つくりで培った技術とノウハウを基に、機能性はそのままに日常で履く靴へと再構築したシリーズが「810s(エイトテンス)」です。
専門職用の靴の機能を再評価して日常履きに活かし、専門靴特有のネガティブなイメージのあるデザインを再構築することで810sシリーズの靴は作られました。名前の由来である「腹八分:8/10 eight-tenths」は満腹ではなく空腹でもない、満たされすぎず物足りなくもない「ちょうどいい」状態を表しています。専門職用の靴を作り続けてきたムーンスターだからこそ出来る810sシリーズは、機能性とデザインのちょうどいいバランスを意識し、工業製品的な要素や価値観を取り入れ、ムーンスターの海外協力工場で生産されています。


KITCHE(キッチェ)
食品・厨房シューズ「キッチンスター」がモデル。水や油で滑りやすい床でも滑りにくいよう、床面に吸いつくようなソールを使用しています。アッパーは丈夫な人工皮革で耐久性もあり中敷きは抗菌防臭仕様になっています。
Made in Vietnam


STUDEN(スチューデン)
学校のグランドシューズ「SCアスレチック」がモデル。中高生の活発な動きでも滑りにくいように接地面をフラットに設計され、自転車のペダルも踏み外しにくい仕様。踵にはヒールカウンターを搭載して運動時の安定感が向上し、反射材もついています。
Made in China



HOSP(ホスプ)
看護師用のワークシューズとして開発された「おもいやり」がモデル。長時間労働や瞬発的な動きに対応した機能が備わっています。足抜け防止の甲バンドや、踏んだまま履けるストレッチ素材を踵に使用し脱ぎ履きもしやすく、お手入れしやすい合皮を使用しサイドには通気性のよいメッシュ素材の使用されています。
Made in Vietnam


CAF(カフ)
食品・厨房シューズ「キッチンスター」のサボタイプがモデル。靴の脱ぎ履きが多い環境で手を使わずに履ける仕様です。機能面では同じ厨房シューズモデルの「KITCHE」と同じ機能をもっています。
Made in Vietnam


UNIVE(ユニーヴ)
介護靴の「PASTEL」がモデル。足あたりが優しく軽い介護用シューズをモデルにして、大きな面ファスナーで足を包み込む構造です。凹凸のあるアウトソールでちょっとしたレジャーにも対応できます。
Made in China


MARKE(マルケ)
市場などの水場から土木作業現場まで、幅広く活躍するゴム長靴「BESTER L」がモデル。多用途とゴム長靴を普段履きに。バックル仕様で着脱のし易さはを保ちつつ、フィット性のあるシルエットに改良されています。底面は滑りにくさを考慮して設計された吸盤ソール(サクションソール)が採用されています。
Made in China

おわりに

ムーンスターは座敷足袋の製造販売から始まり、地下足袋の開発を機に靴とゴムの加工技術のノウハウを積み上げてきました。現在もその技術を更新し「靴を開発」し続けているゴム靴メーカーです。
前編、後編にわたって「地域に根ざしたゴム靴メーカー」としてムーンスターを紹介してきました。ムーンスターは自社工場でゴム底靴の製造工程のほぼ全てが完結されます。ゴムの配合と加工、布の加工と縫製、鋳物の足型、更には機械のカスタムまで。だからこそノウハウが積み上げられ、受け継がれて、更なる技術開発に繋がってきていると思います。
ムーンスターとはどんな会社なのか、これまでにどんな靴を作ってきて今どんな靴を作っているのかを知ることで、ムーンスターのスニーカーや、見慣れた学校靴や上履き、専門職の方なら普段職場で履いている靴。それらを手に取る時、履く時、これまでと違った視点が追加されるのではないかと思います。

踵(かかと)を踏むべからず

ムーンスターのスニーカーを仕入れ始めたのは2013年。このシリーズが始まった当初から取り扱いをさせてもらっています。FINE VULCANIZEDからはじまり、CHIC INJECTION、SYNERGY CRAFTS、810sへと、もともと持つ技術を生かした新しいプロダクト開発が行われ、数多くの靴が生み出され続けています。うなぎの寝床ではムーンスターのそれらの靴を、技術や製法の特徴、歴史、未来へむけた取組みと思われるものなど、いくつかの角度から靴づくりやムーンスターという会社の一端を捉えられないかと考えながら、日常向けのほんの入り口のような部分のみをセレクトしています。
ムーンスターのスニーカーは、大きな分類としてはローテクと呼ばれる靴になると思います。そのローテクスニーカーとしての丁度よい履き心地とはどういうものなのか、企画開発のみなさんと話していると靴に求められる様々な要素を吟味して、製法の選択から素材選びなど1足の靴としてまとめられているのがわかります。見た目だけではなく、歩くときの力のバランスや足にかかる負荷を考慮した疲れにくいクッション性、第二の心臓とも言われる足の健康にも通じる履き心地や安全性なども当然ながら考えられています。靴は我慢して身に付けるものではないので、気になる靴があったらまず足入れしてみてください。日本人に向けて作られたスニーカーです。

キュレーション 春口

学校指定靴と一般向け仕様

前編はこちらから

 

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