杉と人。利用し合う共生 / スギコダマ
「九州のスギコダマ展(2025.3.27 ~ 4.6)」に関連した特集記事の後編です。
前編はこちら→「アートは無用の長物か? / スギコダマ」
有馬さんの話を聞いている中で、そもそも杉って何なのか気になってきた。身近にあるその存在を今一度俯瞰して見てみたい。以下wikipediaより引用。
日本人にとって古くから生活や信仰の対象として馴染みの深い樹木で、建築材として柱や板などに利用され、樹皮は屋根葺きの材料として利用されてきた。日本酒の酒蔵の軒先には、スギの葉を束ねて丸くした杉玉が吊される。線香はタブノキとともに、古くなったスギの葉を粉末状にしたものから作られる。日本ではスギの植林も盛んに行われ、富山や北関東の風の強い地域では人家をまもる防風林としても植えられた。スギは極めて有用な植物であるが、春先の晴れた日に花粉が大量に飛散する影響で引き起こされるスギ花粉症は、日本人の国民病ともいわれ社会問題のひとつとなっている。
杉は古くから日本に生息する固有種で、基本的には日本にしか生育していない種と言われている(例外はある)。杉と人の関わりは、縄文時代(約6,000年前)にまで遡ることができる。その頃はノコギリのような刃物はなく、木を切り倒すこと、ましてや板材にすることはすごく難しかったと思われる。そうした中で、杉はやわらかく、切るではなく「裂く」ことができた。しかも真っ直ぐ成長する。そのため家を建てる素材に重宝された。
しかし、使うだけでは杉は無くなってしまう。そのため人間(日本人)は杉を植え始めた。杉の植林は室町時代ごろ(約600年前)から行われるようになったと言われている。
種族の繁栄(子孫を残すこと)が生物に備わる本能だとするならば、ある意味では、杉は「人間」がいたからこそ、自然界の生存競争に生き残ったとも言える。ある意味では、人間は「杉」がいたからこそ、自然界で安全な住まいをつくることができたとも言える。杉と人は互いを利用しながら、互いの生存に介入しながら共生してきた。そしてその関係は何世代も渡りながら、現代へ脈々と続いている。
Photo:勝村祐紀
工房近く、柞原八幡宮の大杉。樹齢は定かではない。

年輪は、時間の積層
林業の世界では、年輪の淡い色の部分を夏目(なつめ)と呼び、濃い色の部分を冬目(ふゆめ)と呼ぶらしい。木は中心から外側へと成長し、温暖な春から夏にかけて成長した部分が夏目で、寒さ厳しい秋冬には成長が止まり、その部分が冬目として現れる。木それぞれがもつ年輪の模様は、当然それぞれに異なる。樹木の年齢は年輪を見ればわかるというのはよく聞く話だが、そこには確かに木が過ごしてきた時間が刻まれている。
今、山にある杉は、里山で人が手を加えて植林したものが多い。神社の御神木なども誰かが植えたのを大切に守り継ぎ、長い月日をかけて大木になっている。木材として使っている木も、30年から300年かけながら、親、祖父の代に植えたものを自分たちが今使っている。しかし、杉は木材価格という意味では、やわらかく傷つきやすい、大量に植林されているなどの理由で、価値はあまりつけられていないらしい。
「200〜300年続いているものを今普通に使っているって、体験価値が高いような気がしている」と白水さんは言っていた。私たちが今見ている風景は、今まで続いてきた流れのほんの一部分、表層に過ぎない。スギコダマという彫刻作品には、杉が一生を過ごした時間、杉が何世代にも渡って種を繋いだ時間、そして杉と人が共生した時間が記憶されていると思う。一生かけても経験することができない大きなスケールの時間軸に、スギコダマを通してアクセスできるのかもしれない。
有馬さんの展示は4/6(日)まで。ともかく、この作品を直に体感してもらえたらと思います。土日は有馬さん在店です。旧丸林本家にてお待ちしております!
荻野
うなぎの寝床 旧丸林本家
日程 2025年3月27日(木)〜 4月6日(日)
店休日 火、水(祝日営業)
営業 11:00〜17:00
住所 福岡県八女市本町267 (会場アクセス)
電話 0943-22-3699
駐車場 14台
<作家在店日>
3/27(木)・3/29(土)・3/30(日)・4/5(土)・4/6(日)
企画展詳細はこちら
前編はこちら→「アートは無用の長物か? / スギコダマ」