アートは無用の長物か? / スギコダマ

九州のスギコダマ展(2025.3.27 ~ 4.6)」に関連した特集記事の前編です。
後編はこちら→「杉と人。利用し合う共生 / スギコダマ

Photo:勝村祐紀

まあるい曲線。小さなものは、手のひらに乗せてみると軽い。大きなものは、何よりでかい。指先で触ると、年輪の凹凸を感じる。表面の仕上げ方や木そのものによって触り心地は異なる。

ネコ、サイ、ロケット、おにぎり。それぞれの形や存在感を、何かに例えたくなる。わからないということを、何かで埋めようとする。わからない物事を理解しようとするのは、人間の本能なのかもしれない。

九州のスギコダマ展(うなぎの寝床 旧丸林本家)」に際し、白水さんと企画展チームとで、作家である有馬晋平さんの工房に訪問した。

スギコダマを見て、これが何者なのか理解しがたい気持ちになる人もきっと多いと思う。私自身もそうで、工房で作品を見て話を聞いても、結局のところわかっていない。わかろうと頭を働かせ、わかった気になるが、わかった気になっているだけということに気づかされ、ぐるぐると巡り、結局わからないに辿り着く。

わからないことに頭を使い時間を費やすことは、非効率的とも言える。いわゆる「コスパ・タイパ」はきっと悪い。しかし、それは本当に無用なものなのだろうか。思考を巡らせることは無駄なのだろうか。

 

Photo:勝村祐紀

美しいってなんだろう?
木を見て、おにぎりを見て

有馬さんは、最近おにぎりの形に惹かれていると言う。この形に後ろ髪引かれる感覚は、自分がどうこうよりも、何世代も前から日本人の中で育まれ続けてきたものなんじゃないかと。

私はそれを聞いて、久留米・hisiであった辻茉莉花さんの展示で見た言葉を思い出した(厳密に言えば予定が合わずに展示を見に行く事ができなかったが、辻さんとの会話の中で似た話を聞いていた。文章はインスタのストーリーに展示していた写真が上がっていて、めちゃくちゃ良くて思わずスクショしていた)。以下一部引用させていただく。

少し前に、植物に関する本の中で、紅葉などは植物が生存のために人間に合わせて進化した(人間に「美しい」と思わせて切られないようにする)という説もあるけど、逆に人間のその「美しい」と思う感覚の方が後付けで、人間が生存の為に得た本能ということも考えられる(人間は木がないと生きられないから、木を「美しい」と思うことで、木を大切にする)という話を読んで、私の世界はひっくり返った。色や音や風や光をうつくしいと感じること自体が、私という生命を維持するための本能なのだとしたら、芸術は、文化は、全く娯楽ではない。

辻茉莉花

人は何かを見て、なぜ美しいと思うのか。そんな問いよりも先に私たちはその感情を抱く。なんとなく美しいと思ったり、なんとなくいいなと思ったものに対して、その理由を言葉にすることは簡単ではない。そもそも、こんなことを考えるのは野暮なのかもしれない。しかし、もしこの美しいと思う感覚が、生きるために我々の遺伝子に組み込まれているのだとしたら。有馬さんのおにぎりの話も同じように考えた。スギコダマを見てもそうだ。なぜ美しいと思うのか。それはやわらかな形か。時間を刻んだ年輪か。はたまた木を大切に思う潜在意識か。

結局のところ、よくわからない。けれど、「わからない = 楽しくない」ではない。むしろ、説明できない美しさを本能的に感受する(してしまう)ことが、ヒトという生物を生物たらしめているのかもしれない。だとすれば、用を持たないアート(芸術)も、全くもって無用でも無駄でもない。

まずは実際に作品を見て、触れて、体感してもらうのがいちばんと思います。わからないって何なのか、美しいって何なのか、スギコダマを通して皆さんと一緒に面白がれたら嬉しいです。少しでも興味ある方も、よくわからないという方も。お待ちしております!

荻野

有馬さんとおにぎり型スギコダマ

工房にて有馬さんのスケッチを見せてもらった。スギコダマの輪郭、年輪、影、木の姿、里山の風景。それは有馬さんの視線を写し取っているように思える。

会場では有馬さんが書いたスケッチブックも展示します。有馬さんが何を見て、何を感じてスギコダマをつくるのか、追体験できたらいいなと思います。また、初日と土日は有馬さん在店です。色々お話ししてみるのもぜひ。

 

うなぎの寝床 旧丸林本家
日程  2025年3月27日(木)〜 4月6日(日)
店休日 火、水(祝日営業)
営業  11:00〜17:00
住所  福岡県八女市本町267 (会場アクセス
電話  0943-22-3699
駐車場 14台

<作家在店日>
3/27(木)・3/29(土)・3/30(日)・4/5(土)・4/6(日)

企画展詳細はこちら

後編はこちら→「杉と人。利用し合う共生 / スギコダマ

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