住岡郷土玩具製作所
熊本県人吉地方に伝わるきじ馬と花手箱は、平安時代後期に壇ノ浦の合戦で敗れ人吉の奥地に逃れた平家の落人たちが生活の糧として、また都の栄華を偲んで作り始めたと言われています。きじ馬はきじ車とも呼ばれ九州地方の代表的な郷土玩具ですが、人吉で作られているものは、黄、赤、緑で彩色され、額部分に「大」と書かれているのが特徴です。かつては子供がまたがって遊べるほど大きいものもありましたが、現在は小ぶりのものが主流となっています。花手箱は木の箱に和紙を貼り椿の絵が描かれ、素朴でありながら都の華やかさを思わせます。一度廃れようとしましたが、明治時代後期に住岡玩具製作所の初代住岡喜太郎さんが苦労の末復興させました。毎年2月に開催される人吉のえびす市では露天に並べられたきじ馬を男の子に、花手箱を女の子に土産物として買って帰るのが習わしとなっています。現在は2代目の忠嘉さんが家族とともに製作にあたっています。
■ 歴史 : 人吉でも語り継がれる、平家の落人たちの物語
住岡玩具製作所が作る「きじ馬」や「花手箱」は、平家の落人たちが作り始めたと言い伝えられています。平安時代末期のいわゆる「源平合戦」は、国全体が源氏と平氏に二分された6年間にわたる内乱で、1185年に関門海峡で繰り広げられた「壇ノ浦の戦い」で平氏は敗北し滅亡します。平家一族や平氏軍に加担した多くの人々が、全国に散り散りになって隠れ住み、それが「落人伝説」として様々な地域で伝えられているのです。肥後(現在の熊本)は、平清盛が自ら治めていた九州唯一の直轄地だったこともあって、縁を頼って多くの落人が逃げ込んできたといわれており、人吉地域でも失われた栄華を懐かしむ落人たちの物語が語り継がれているのです。
■ 土地性 : 九州でしか見られない独特な郷土玩具
「きじ馬(もしくは雉子車)」は九州でしか見られない、野鳥のキジを模した郷土玩具で、種類は福岡県瀬高町の「清水系」・熊本県人吉市の「人吉系」・大分県玖珠郡の「北山田系」の3つの系統に分類されています。住岡玩具製作所が作る人吉系のきじ馬は、首のあたりに「大」の字が描かれるのが特徴で、これは平家の落人たちが故郷・京都の「大文字焼き」に思いを馳せて入れたという説があります。また「花手箱」や「きじ馬」には、椿の花の絵が描かれており、これは人吉一帯に咲く花であることや、平家の赤旗を表しているなどの説もあるようです。人吉地域では、きじ馬は男の子に、花手箱は桃の節句に女の子に贈る習わしが根付いていたのです。
■ 素材・技術 : 木を削り、絵を描いて生まれる「きじ馬」と「花手箱」
失われかけた人吉の郷土玩具の伝統を再興させた、父・喜太郎さんの膝の上で幼い頃から製作工程を見て覚えたという2代目の住岡忠嘉さん。「きじ馬」の材料は以前まで朴(ホオノキ)でしたが、現在は主に桐(キリ)を使っています。半年以上自然乾燥させた木材を鋸や鉈で削り、胴体と車輪の部分を合わせて組み立て、黄・緑・赤の素朴な色付けを施します。「花手箱」は、檜(ヒノキ)や杉を製材し箱に組み立て、白で地塗りしたあとに椿の花が描かれます。この際、木に直接絵付けすることが多くなっている中、まずは和紙を貼り、その上から絵付けをするという、一手間かかる昔ながらの技法で描かれた花手箱を取り扱っています。
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