まず”感覚”を大事に。裂き編み作家 河村美琴さん
日常生活のなかにあるものを手にとった時、これはいったいどんな方が、どんなきっかけで作るようになったのだろうと、作品の背景にある「つくりてさん」にとても興味がわいてきます。つくりてさんのことに少し触れるだけでも自分と作品の距離感が近くなり、より大切に使っていけるのではと思います。
3月6日からスタートしている、企画展「MIKI KAWAMURA フリンジバッグと久留米絣」。
開催前に裂き編み作家の河村美琴さんと直接お話しする機会をいただき、河村さんの作品づくりとの向き合い方、作品への想いをお聞きしました。
裂き編み作家 河村美琴さん プロフィール
2005年より編み物作品を手掛け、2011年から裂き編み作家として本格的に活動をスタート。現在は福岡県に拠点をおきながら、全国各地で展示会を開くなど活動の幅を広げています。
「編み物をはじめる」
河村さんの編み物との出会いは15年ほど前。編み物講師だったお母様と暮らす家の中では当たり前に編み物のある風景があり、それが当たり前すぎて編み物を仕事には考えていなかったといいます。
もともとバッグが好きな河村さんはある時、麻ひもバッグを見て「なんてかわいいバッグなのだろう」と衝撃をうけ、「自分で編んでみたい」と思って編み物をはじめました。麻紐でバッグを編んで作品の販売も順調だったなか、「編むことで他の人がやっていない、何か自分にしかできないこと見つけたい」と、つよい気持ちを抱くようになったそうです。
「バッグが好き、生地が好き、編み物で自分がやれること」
バッグが好きそして何より「生地」が大好きな河村さん。編み物を始める以前から触り心地よい布に魅力を感じ、日頃から集めていて編み物をやっていた当初から家にもたくさんあったそうです。着るものも生地感で選び、綿や絹、麻やウールなど数々の生地をまずは手にとって触ってみるのが日常でした。
そんな中で「編み物で何か自分にしかできないこと」を模索していた河村さんが、手もとにある生地たちを見ていたとき、ふと「その生地をつかって編むことができないかな」と思ったそうです。この時が、「バッグが好き、生地が好き、編み物で何かをやりたい!」が組み合わさったターニングポイント。河村さんが編み物から「裂き編み」の世界へと足を踏み入れ、オリジナルの裂き編みバッグが生まれました。
「布を裂く」が作品の美しさをきめる
河村さんは作品の生地選ぶとき、布の触り心地の良さを第一に考えられています。河村さんにとって布が新品でも古布でもどちらでもよく、よい生地は触ってみて、裂いたら分かるといいます。よい生地だと感じるのは裂いた時に何か違いがあるのか伺うと、毛糸の出かたが違っていたりするそうですが、「よい」と思う感覚を明確に言葉で表現するのはむづかしく、河村さんがこれまでたくさんの生地を触って、裂いてきたからこそわかる感覚なのかなと思います。
裂き編みバッグが美しくあるために一番重要なのは「布を裂く」作業。丁寧に編んでも糸を綺麗に作れていなければ美しく仕上がらないそうです。一見、編むほうに注目されそうですが、布を裂くところが要になるのはおどろきでした。布を裂く、糸を作る、編む。はじめから終わりまでどの工程も丁寧に、手間をかけることで、使いやすく型崩れしにくく、そして美しい裂き編みバッグが完成します。
「新たな久留米絣の活かし方へつながる」
あらゆる綿の織物を手で裂き、編んで作品を手がけてきた河村さん。久留米絣をフリンジにしていく中で何か特徴的なところを伺ったところ、おもしろいなと感じることがありました。
それは、一般の機械織でつくられた綿生地だと、手で裂いた時、たて・よこ方向、どちらから裂いても割と同じように裂けるようですが、久留米絣の場合、よこ方向だとまっすぐ、たて方向だとくるくるっと引っ張られたようになり、裂いた時の布の表情が違ってくるところです。
裂き編みバッグのフリンジとして完成したとき、ここの部分はよこかなー、たてかなー、と考えながら見てみるのもたのしみの一つです。普段は平織の生地として面でみることが多い久留米絣が、裂き編みのバッグ(フリンジ)へとかたちを変えることで立体となり新たな見え方ができています。同じものが一つとしてない作品ができる、裂き編みと久留米絣の融合、ぜひこの機会にご覧いただきたいです。
裂き編みバッグ作品からは佇まいや、かたち、色、編み目模様、持ったときの印象、など色々な要素を含んだ「美しい」が存在します。企画展ではその美しさを体感いただきつつ、ぜひ作品とともに河村美琴さんのお人柄や裂き編みに対する思いや考えにもふれていただけたらと思います。
田中