石と土からできるネイティブスケープ【3】 あなたは石タイプ?土タイプ?チャート診断から本を選ぶ

皆さんは、普段どのように本を選ぶでしょうか。
ネットの情報・レビューから、表紙が素敵だったから、好きな作家さんだったから、あらすじが面白そうだったから…様々な理由があるでしょう。

私自身もまさに上記のような選び方をしているのですが、このような選び方をしているとどうしても「自分好み」に偏ってしまうのを感じます。情報を得ようと始めたSNSで、誰から、どこから情報を集めるかを選択するのは自分ですし、ネットのサジェスト機能は、私の検索履歴や購入履歴から「私好みであろうもの」は薦めてくれますが、そこから逸脱したものは薦めてくれません。

第5回の企画展『石と土からできるネイティブスケープ展』の企画に目を通したとき、私が惹かれたのは、 “『あなたは石タイプ?それとも土タイプ?』というチャート診断をもとに、福岡県、佐賀県、山口県でつくられた「陶器」「磁器」「ガラス」からまずはふれていただき、石ものや土もの、そしてガラスとはどんなモノのことを指すのか、特徴や産地などから検証・考察していきます。”という提案でした。

参照【地域文化って何だろう?研究会】 第六回 / 石と土からできるネイティブスケープ展

私自身、雑誌に載っているフローチャートについ目をとめて矢印を辿りはじめてしまうタイプなので、「チャート」という単語自体に親しみがわきます。
器にはあまり詳しくない自分でも器選びが楽しめること、その結果が押しつけがましくないこと、そしてモノを選ぶ新しい基準がカジュアルに得られること。ついやってみたくなる気軽さも魅力です。この企画を、何とか本の仕事に活かすことはできないかと考えました。

 

うなぎBOOKSは『本と人をつなぐ』という役割があります。

お客様に、まだ知らない新しい本と出会ってほしい。ネットのサジェスト機能の「外」にある選書を提案したい。冒頭で述べたように、私自身も常に新しい本との出会いを模索している一人ですから、うなぎBOOKSの棚はそのような思いから構成されていますし、ご希望のお客様には直接選書も行っています。

これまでの読書傾向をお聞きして、どんな時に本を読むのか、好きな作家さんはいるのか、最近読んで良かった本は、反対にあまり好みではなかったのなら、その理由は…お話する中でうかがえるお客様の希望や雰囲気も感じ取りながら本を選んでいます。

その行程を、より簡略化してチャートに落とし込めるのではないか。そうすればこのチャートを利用して、普段私が店頭で行う選書を疑似体験していただけるかも知れない。

そうして生まれたのが、この『あなたは石タイプ?それとも土タイプ?』チャートによる選書です。

 

チャートからたどり着くのは6冊の文庫本。

この6冊は普通に店頭で出会っていたとしても、もしかしたら目に留めなかった、普段の読書傾向の範囲外にある本かも知れません。先入観のないフラットな目線で、プレゼントボックスを開けるときのようなワクワクした気持ちで本と出会っていただけるように、6冊にはオリジナルのブックカバーをかけ、あえて元々の表紙やタイトルを伏せています。

その代わりに、このチャートから私がどのような人物像を想像したか、どうしてこの本を薦めようと思ったのかを綴ることで、店頭での選書サービスを再現しました。

 

2016年、岩手県のさわや書店フェザン店が行った【文庫X】という取り組みがありました。

どうしてもお客様に届けたい一冊を、なるべく先入観を排除した状態で選んでいただけるようにと、表紙をすべて覆い隠すオリジナルのブックカバーを付けてタイトルを伏せ、更に試し読みも出来ないようにビニールパックをするという、前例のない販売方法でした。[文字列の折り返しの区切り]当時同店で文庫担当を務めていた長江貴士さんが行ったこの企画は、その画期的なアイディアと爆発的な売上が話題となり、「新しい本の届け方」として、メディアにも幾度となく取り上げられました。「自店でも文庫Xを取り扱いたい」と、全国の書店から申し出が殺到したほどです。

かくいう私も、あの企画によって清水潔さん著『殺人犯はそこにいる』に出会った一人。

普段ノンフィクションは積極的に手に取らないので、もしかしたらあの企画が無ければ読まなかっただろうと思いますが、あまりに衝撃的な内容に、のめり込むように読み薦めました。いつもの本選びの外から出会うきっかけを作って下さった長江さんには、心から感謝しています。

今や【文庫X】のオリジナルカバーは、出版社公認のものとなり、うなぎBOOKSの棚にも並んでいます。手に取られたお客様には、そのカバーの企画意図もあわせてお伝えするようにしています。

参照:新潮社公式HP『全国の書店を席巻した 「文庫X」その正体は……』

 

今回作成したオリジナルのブックカバーは、この企画展独自のものです。

企画意図、そして選書に込めた思いもあわせて、『本と人をつなぐ』ひとつのきっかけとなりますように。

『石と土からできるネイティブスケープ展』は、現在旧寺崎邸にて開催中です。

会期は10月22日(土)~11月7日(月)となっております。

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