【ウールMONPE】 「羊さんの毛」はすぐれもの
この冬、新しく仲間入りしたウールのもんぺ「MONPE 尾州」。
久留米絣の素材である「木綿」については馴染みがあるけれど、ウールってどんな素材なのだろう?
と思い、素材としての「ウール」について調べてみました。
○【コラム】 毛織物産地・尾州で息づく「再生羊毛」
(日本の毛織物産地・尾州について、再生羊毛についてはこちらのコラムで詳しく書いています↑)
ウールは羊さんの毛。昔の羊さんは毛が少なかった!
ウール(羊毛)は羊の毛からつくられますが、かつて、羊は今のように多くの毛量をもちませんでした。最古の羊は哺乳類偶蹄目ウシ科に属する牛の仲間として、約1000万年前の最終氷河期に誕生しました。当時の羊は大きな角をもち、毛皮は厚く、粗い毛(上毛)でおおわれており、細くて短い下毛(ウール)がわずかにはえていました。そして、気候が暖かくなると自然にすべての毛を脱ぎ捨てていました。
先人たちは食用のために野生の羊を狩猟していましたが、1万年前ごろから羊を家畜化するようになります。その後、長年にわたる品種改良を経て、野生の羊の毛より柔らく、毛量の多い羊をつくることに成功しました。13世紀ごろ、イギリスでは毛織物産業がめざましい発展を遂げ、18世紀には毛織物づくりの機械化が進み、織物繊維としてのウールが普及していきました。
■ ウールにもいろいろあるの?
現在、世界には3000種以上の羊がいますが、細く柔らかく、肌触りがよい繊維がとれるメリノという羊種から採れるメリノウールが主なウールの毛として使われています。そして1頭の羊から採れる毛でも、部位ごとに長さや汚れやすさなどが違います。例えば、お腹の近くやお尻近くは汚れやすいですが、背中部分は気候による傷みが少なく良い毛がとれます。
■ ウール素材の特徴
ウールは「温かい」「洗うと縮む」「チクチクする」などいろいろな特性をもちますが、それらの性質は羊毛の繊維がもつ構造によるものです。羊毛の繊維を顕微鏡でみてみると、ひとつひとつの繊維が鱗で覆われており、表面は節のある木の幹や松ぼっくりに似ているそうです。この鱗は「スケール」と呼ばれ、このスケールが開いたり閉じたりすることで、ウールの特性が生まれます。
① ウールは汗をかいても臭くならない? − 水を弾き、湿気を吸収・放出する −
鱗であるスケールは、3層の構造です。外側は撥水性をもち、水を弾く性質をもちます。このため、ウールは水を弾き汚れにくいという性質があります。そして、内側の2つの層は親水性で水を吸収する性質をもちます。
スケールの隙間から水蒸気を吸収すると、内部が膨張して閉じていたスケールが開きます。すると、さらに水分を吸収します。また、繊維の表面積が大きくなることで水分の発散性が高まり、素早く水分を蒸発させることができます。
水分をすばやく吸収し、すばやく蒸発させることができる吸湿機能と放湿機能のおかげで、ムレたり、ジメジメせず、汗をかいても臭くなりにくいため登山などのアウトドアの衣類や靴下として、昔から季節を問わずに使われています。
② ウールはどうして縮むの? − ウール繊維が絡まると、元に戻らない −
ウール製品は洗濯すると縮む、とよく言われますが、これもウール繊維がもつ鱗状のスケールのためです。水で濡れたウールを強く揉み洗いすると、スケールが開き水分を吸収します。するとウール繊維が膨張してスケール同士が絡み合ってしまいます。繊維が絡み合ってしまうと、生地が硬くなり、厚みが増し、縮んでしまい、元の大きさより小さくなってしまいます。この現象を、フェルト化と言います。
フェルト化による縮む可能性を最小限に抑えながら家庭で洗うコツは、摩擦を防ぎ、繊維を傷めないようにすることです。衣類を裏返してネットに入れ、短時間で優しくドライコースで洗い、洗濯後は、しっかりとシワを伸ばして日陰で平干しするなどです。ただしフェルト化する可能性は残ります。また、石油系の溶剤を用いるドライクリーニングは、ウール繊維のスケールが開くことがないため、フェルト化することはほとんどないようです。
③ どうしてウールはチクチクするの? − ウール繊維の太さとチクチクの関係 −
ウールの繊維には、長くて細いものと太くて短いものが混ざり合ってできています。長くて細いものだけを使うと繊維が整って、表面がなめらかな織物になります。これを梳毛(そもう)と言い、スーツ地などに使用されます。一方、いろいろな長さの繊維をつかうと、柔らかく、起毛しやすく、保温性のある織物になります。これを紡毛(ぼうもう)と言い、冬のジャケットなどに使用されます。
衣服を着たときの肌触りは、ウール繊維の太さに左右されます。ウール繊維の太さは、マイクロン(µm)という単位で表記され、この値が小さくなるほど繊維は細くなります。日本人の肌は、およそ19.5マイクロンという細さ(髪の毛の1/20)で肌への違和感を感じなくなると言われています。ウールがチクチクするという時は、この繊維の太さが太いためであり、繊維が細いウールはチクチクすることはありません。
以上、3つがウールの大きな特徴です。水分を吸収して放出できる繊維ということが分かりました。
他にも、燃えにくい素材のため、高級ホテルや、旅客機の内装、消防服などにウールが使用されていたり、副産物として羊が分泌するラノリンからリップクリームやシャンプーなどの化粧品や治療薬が生まれたそうです。
洗うと縮んだり、着るとちくちくするという経験をしてしまうと、敬遠してしまうウール素材ですが、調べてみると、すぐれた機能をもちいろいろなところで活用されていることがわかりました。何かを選ぶとき、それがどんな素材でつくられていて、どんな特徴や構造をもつのかを理解することで、選択の幅も広がり、選ぶ楽しみ、お手入れをする楽しみも増えていくのだと思います。
画像①,②,③ / 提供:大鹿株式会社(編集:うなぎの寝床)