“Creative Challenge Project” 始動
うなぎの寝床は、地域文化商社として久留米絣を伝える上で色んな取り組みをしています。
昨年より、久留米絣縞卸商協同組合に加入、内部の方とも色んな事で意見交換も重ねて来ています。他産地の繊維産業の状況と変わりなく、久留米絣も廃業、生産減少との声を聞く事も多いです。久留米絣の創始者、井上伝は糸を括り染め織り、柄を織物の中に表現して無地で織られていた織物に違う可能性を見出したのだと思います。それから、色んな染、織の技法が加わり200年以上受け継がれています。その積み重ねた技術・技法を元に久留米絣の可能性を織元さんと考えたいと思い始動させました。
Creative Challenge Project とは?
「久留米絣の可能性に挑戦し続けるプロジェクトです」
Creative Challenge Projectでは、糸を括る、染める、織るなどの久留米絣の技法や技術を応用し、新たに活かしながら、久留米絣の可能性に挑戦していきます。現代だからこそ、この産地だからこそできることを考えて、問い続けるプロジェクトです。
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ガンダム好きな久保さん
challenge No.2 久保かすり織物✕うなぎの寝床
テーマ 「ぐの間と胴切れ」
2019年夏頃から福岡県筑後市の久保かすり織物と生地の開発を始めました。クリエイティブチャレンジ No.2に先行して進んでいたのが、元となる生地の開発です。実は今回使用している生地は、これまで久留米絣MONPEで定番として取り扱ってきた生地にはなかったモールと呼ばれる糸を緯糸に使用して織られています。モール糸とは、全体に毛羽のある糸の事を言います。モール糸にする工程で現在では、糸2本を毛羽となる別糸を挟むように撚糸し、その糸先をカットしたモール糸と、ラッセル編みという糸を編みながら毛羽になる糸を挟み込む二つの方法があります。今回は撚糸をしながら毛羽を作った糸を使用しています。
モール糸は、巻きの状態で毛並みが一方方向の為、生産途中での糸の管理が重要になります、特に目視では毛並み方向が判断できない為に緯糸を、1番~100番まで順番通りに同方向で小分けにし、順番通りに織機に通していかないと、陰影のような線が浮き出でるため商品化出来なくなります。モール糸を経や緯に入れた場合の試織を繰り返して改善を続けた結果、緯糸にモール糸を使用した織物が出来上がりました。
モール糸を順番に並べる入れ物
定番の久留米絣MONPEの中にも太い糸を使った厚地の生地がありますが、より肌寒い季節に着られる地厚で目の詰まった久留米絣として、風合いや肌触り、着用しての暖かい木綿の織物として、綿モール糸を緯糸に使用した生地を開発しようと考えました。久留米絣では風合いを保つために糸の種類や糸の大きさ(糸番手)と糸本数(密度)の組合せはおおよそ決まっていますが、今回は新たに綿モール糸を使用し、久留米絣が持つ大事にしたい風合いを保ちながら番手と密度の組合せを探り綿モールの久留米絣の最初のモデルが出来ました。綿モールを使用した久留米絣の新たな可能性として今後も試行錯誤を続けていきたいと思っています。生地は経糸に無地の糸と緯糸にモール糸を配した無地5色と、経糸で絣柄のくくり糸と緯糸モール糸のクリエティブチャレンジ№2の1色の合計6種類です。
【 過程と工程 】
さて、前段が長くなりましたが今回のテーマとして立てた「ぐの間と胴切れ」は柄を考えている初期の頃から狙っていたわけではないのですが、結果的にその2つがテーマになったなという感じです。まず柄の大元を考えて、久保さんに相談しにいきました。やや寒い時期向けの生地になるので、冬向けの素材でも馴染みのある杉綾(ヘリンボーン)のような柄をもとにしようと考えましたが、先染の久留米絣の特性上柄の緻密さに限界があるので、どのあたりが落とし所になるかを意見交換しながら表現方法を探りました。括る短さの限界、図案が繊細な線の繰り返しである杉綾柄を乱れない様に織る難しさと工夫のしどころなど、作り手でないと把握できない箇所の話を聞きながらやりとりを重ね、上下向きの矢絣をランダムに配置した柄が出来上がりました。
最初持ち込んだ図が右のもの、それを久保さんとやり取りしながら修正をかけてもらう。
上部の黒いバーが柄のくくり糸をどのように括るか表す。下部はその糸をどのようにずらせば柄が構築できるかを計算したもの。
この柄を作る方法ですが、単純な括りの繰り返しの糸を荒巻工程の「ぐの間」と呼ばれる作業で糸をずらすことで、そのまま何もしなければボーダーになってしまう先染のくくり糸を図面通りの模様が浮かび上がるように調整して作ります。矢絣と呼ばれる久留米絣ではお馴染みの柄の作り方と同じ方法です。ただずらすと言っても、あの細い糸を図面通りに1本1本ずらして柄にしていく作業なので、とても神経を使い間違えられないプレッシャーのかかる仕事です。この図案は複雑なので余計に間違えたら取り返しがつかないとのこと。
結果的に大中小様々なぐの間を目一杯使い倒した柄になりました。柄を平面上で見ると、縦方向に1つの柄リズムを作り、それを少しずつずらしたものを4列配置し、その1束を2つずらして配置したものが1つの柄のまとまりで、そのまとまりを横にズラーっとならべるとこのようになります。(わかりずらい…)
奥から手前に向かって糸が巻き取られていく荒巻作業
「ぐの間」
ちなみに「ぐの間」とは荒巻という経糸を整型する工程において、一部の絣部を押し下げて巻き上げのタイミングを遅らせることで柄を互い違いにする技法で、その工程を横から見ると三角の空間ができ、ひらがなの『く』の字に見えることから『くの間』が濁って『ぐの間』になったと言われているそうです。(諸説ありそうです)
ぐの間をどのように通すかまとめたもの。糸の通し方の検討だけでも丸一日がかり(そんなに普段はかからない)で、あーでもないこーでもないと職人さんと打ち合わせをしていただいたそうです。
ぐの間を間違わないように潜らせる。
ボーダー状態(左上)からぐの間を経て柄が浮かびあがり巻き取られていく(右手前)
ぐの間
ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ の 間
「胴切れ」
さて、もうひとつのテーマ、胴切れです。柄を表現するためのくくり糸ですが、その括りの縛り具合と染めの関係において糸に意図しない染料の滲みが現れることがあります。滲みが絶対に出ないように、括り方を工夫することはできるのですが、そうすることでその後の縛っている糸を解く工程の手間が異常に増えて作業効率が悪くなるということになります。この作業性と括りと染まり具合のちょうど良い加減を意識しながら括りがなされているのが久留米絣の先染のくくり糸作りに欠かせない括り屋さんの仕事です。通常ではその胴切れが出ないように工夫を凝らしているのですが、今回はくくり、染め、整型、織りの過程で計算しながらも意図しない要素を取り入れることを試みようと考え、括りの間から滲む染料も柄の要素として取り込むことにしました。どうなるかは糸を解いて、織り上げてみないとわかりません。緯糸の色によって目立ち方や印象が違ってくると思います。
わざと作る事!!
くくり
染色後
胴切れ
胴切れがある括り糸(左)と胴切れがない括り糸(右)
束を染めるので、内外も染まり具合が違ってくる
織機にかかった様子
針金にひっかけて糸の送り具合を調整して、織りながらも柄合わせをする
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今回の2つのテーマを支えたのは、久保かすり織物の丁寧な整型技術があってのことです。ただただ柄が乱れて目も当てられないものにもなりかねません。経絣(板絣)を得意とする久保さんとの取り組みを通して、久留米絣の柄作りの要素に自分なりに仕掛けを施してみることができました。この取り組みを次に生かしてさらにチャレンジを続けていきたいと思います。おしまい。
春口
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