そこまでやるか! 遠州コーデュロイ / 毛並みの美しさ、やわらかな風合い

このコラムは「遠州コーデュロイMONPE(カネタ織物福田織物)」に関連した特集記事の前編です。
後編はこちら

正気の沙汰ではない、遠州コーデュロイができるまで

うなぎの寝床の荻野です。
今回、産地コラボMONPEシリーズの「遠州コーデュロイMONPE」に新色(グレー)新作(太畝)が仲間入り。それに伴い、産地に取材に伺いました。

取材中、特に驚いたのが上の写真。生産中のコーデュロイが、轟音の中で“燃えて”いるのです。

日常の中で見かける場面も多いコーデュロイ。それがどこで、どうやって作られているのか。現場に行くまでは知る由もなかったなぁと改めて認識しました。

静岡県西部に位置する遠州地域。そこには日本でも有数の繊維産地があり、国産のコーデュロイでは全国シェアの95%以上を誇ります。コーデュロイと聞くとまず先に海外をイメージしそうが、日本にもれっきとしたコーデュロイづくりがあるのです。

そして、遠州コーデュロイは海外産と姿形は似ていても、中身は全く違う「独自の文化」で発展してきたことがわかってきました。今回は、この「遠州コーデュロイ」から見えてくるネイティブスケープ*を前後編でご紹介します。

前編は、まず「遠州コーデュロイができるまで」について。前述した “燃える”工程にとどまらず、現場には想像もできなかった風景がいくつも広がっており、それら全てがモノの魅力(美しさ・風合い・着心地)につながっているのです。

*ネイティブスケープ(Nativescape)とは
「ネイティブ(その土地固有の)」と「ランドスケープ(風景)」を足した造語。うなぎの寝床では、地域固有の文化と物語(ネイティブ)を重んじながら、未来へとつないでいく人々がいる風景(ランドスケープ)をネイティブスケープと定義しました。

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コーデュロイ、どうやってできる?

コーデュロイは、たて方向にライン状に走る凹凸「畝(うね)」のある綿織物です。特有の光沢と滑らかな肌触りが特徴で、綿を使った秋冬向けの素材として重宝されてきました。

さて、この立体的な表情はどうやってできるのでしょうか。実はこれ、単純に「織る」だけでは作ることができません。織りの技術と工夫はもちろん、「コーデュロイのため」の特殊な加工によって作られているのです。

 

こうやってできる、コーデュロイ

上の図はコーデュロイの断面図(イメージ)です。

コーデュロイには織物の基本的な構造「タテ糸+ヨコ糸」に加え、「パイル糸」が織り込まれています。このパイル糸をカットすることで畝が立ち、凹凸のある表情とふんわりとした肌当たりが生まれます。

と、すごく簡単に説明しましたが、それでは実際どうやってカットしているのでしょうか。そこには機械ではできない、人の手の存在があります。

 

その凹凸、一本一本切る人がいる

織り上げた生地はパイルのカットを専門に行う工場へと運ばれます。ここでの行程は「カッチング」と呼ばれています。

パイルをカットするために、円形のカッターとガイドニードル(針)を用います。このセットを畝の数だけ機械に設置。ガイドニードルがパイル部分のみをすくい上げ、拾ったパイル糸だけを回転するカッターで切っていきます。この工程によって、コーデュロイ特有の表面の畝ができます。

ガイドニードルを生地に刺す作業は、一本一本、人の手で入れられています。

カッチングの行程は一番傷が出やすいところとも言われており、カッターの切れ味が微妙に悪かったり、ガイドニードルがちょっと曲がって針の向きが変わっただけでも、それがスジ(傷)の原因になります。これは加工した後に検査して初めてわかることで、カッチングの工程では気づくことができないため、作業は慎重に行われています。

畝の数や太さに合わせて針の数や種類を変える必要があるため、生地が変われば都度セットを組み替えます。針の曲がり具合や先端の角度も微調整が必要です。その日の湿度によっても状況は変わります。

全ては「パイルを美しく、早く切る」ために。丁寧な作業が日々、人の手によって行われています。

その凹凸、昔は「歩いて」切っていた

生地が動力で送られるようになる以前は、パイルのカットは「歩く」ことで行われていた。台に生地をピンと張り、専用のナイフを持った職人たちがまるでシャトルランのように往復しながらパイルを一列ずつカットしていく。驚愕の事実である。

画像提供:静岡県繊維協会

 

泳ぐ、コーデュロイ

カッチングされたコーデュロイはその後、コーデュロイの加工を行う磐田産業へ運ばれます。糊抜きを行ったのち、生地を回転させながら水の中を通して揉み洗いをします。

この工程の総全長、なんと約5000メートル。いくつものローラーを通り、丹念に揉み洗いすることでしっかりと糊を落とし、コーデュロイの毛羽が立ち、なおかつ生地のコシも抜けてふっくらと柔らかな風合いになります。

この工程で大切なのは、水を惜しみなくに使うこと。自然の水流のように生地を泳がせ、ストレスをかけずに揉み洗うことだそうです。水をたくさん使えば使うほどコストも手間もかかりますが、そこで手を抜かないからこそ、まるで最初から穿き慣らしたジーンズのようにやわらかな風合いになると、工場の方が仰っていました。

手間もコストもかかるこの工程は、日本全国・世界中を見ても例がないそうで、ここにしかないものづくりの一つです。

 

燃ゆる、コーデュロイ

揉み洗った生地を乾燥させたのち、コーデュロイは一度「燃え」ます。

燃え上がる炎は約600℃。高火力の炎の上をカッチングした生地が通過し、表面を炙ります。こうすることで、コーデュロイの畝の無駄な毛羽を焼き切り、整った美しい畝ができます。

生地の種類によってその都度炎の強さや、生地と炎の近さ、生地が通るスピードなどを人の感覚で調整していきます。

高火力の炎で生地加工する現場は、これも日本にはここにしかない設備です。この工程も洗いと同じ磐田産業にあり、遠州コーデュロイの洗い・毛焼を行う唯一の工場として要のような存在です。

その後、もう一度揉み洗いの工程を行い、コーデュロイが出来上がります。

 

今回は、遠州コーデュロイの加工現場を見てきました。

身近なところで目にする機会も多いコーデュロイ。しかしその背後には、数多くの工程と手間がかけられていることがわかりました。

織り、カッチング、水洗い、毛焼。その他紹介できなかった数々の工程も、すべて誰かの手によって成り立っており、美しさ・風合い・着心地のために時間をかけてつくられています。

これはコーデュロイに限らず、全てのものづくりに言えることかと思いますが、やはり現場に行くと「当たり前に手にしていたものが、当たり前にあるわけではない」ということを痛感します。

側から見れば、正気の沙汰ではない光景。けれど、真剣に向き合う人たちがいます。
そうした方たちによって「当たり前」が支えられていることを実感しました。

さて、今までご紹介してきた遠州コーデュロイですが、そもそもの発祥は海外にあります。
どうして海の向こうのコーデュロイづくりが、静岡・遠州に存在するのでしょうか。後編へ続きます。

後編はこちら↓
海外生まれ、静岡育ち。土地に根ざした「遠州コーデュロイ」

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