染めと向き合う、具体的な思考 / 宝島染工 【MONPE Limited Edition 染め】
天然染料×手染めで「中量生産」を実現する染色工房、宝島染工。常に一定の状態が保たれる”化学染料”に対して、不確定要素も多い “天然染料”を使いながら「量産」すること。この対極にも捉えられる活動を営むのはなぜか。その具体的な思考や工夫を代表の大籠千春さんに伺います。
このコラムは「MONPE Limited Edition 染め」に関連する特集記事です。
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作品としてではなく「商品」として提供したい
草木染め作家の工房から、化学染料を使った商業用の染色工場まで、染めの世界を幅広く経験してきた大籠さん。天然染料ならではの美しさや面白さを、手の届かない作品としてではなく、現代の経済循環の中でも当たり前に選べる商品として提供したいという思いで、故郷の大木町三潴郡で宝島染工を立ち上げました。
化学染料が発明された19世紀半ばまで、世界には天然染料しかありませんでした。化学染料と比べ、色落ちや日焼けがしやすいなどデメリットもありますが、経年変化を楽しみ、また染め重ねていくなど長く楽しめる素材でもあります。そうした魅力を日常で楽しめるように、染め工程の数値化やコスト・納期設定に取り組み、天然染料を「中量生産」で提供する生産体制を作り上げています。
今回製作したMONPEの加工書が並ぶ。製品ごとに一枚ずつ加工書を用意し、工程の管理をしている。青色は試作、ピンク色はサンプル 、白色は生産と、用紙の色で工程を管理している。
柄の入り方は服の畳み方から。人が着てどこに柄が出るかを考慮しながら折りたたむ。「MONPEは穿くと股上が凹んで内腿の部分はほとんど見えない」と、着用した時に柄がどう出るか、またどのように見えるのかを考えつつ進めていく。
「板締め」は、生地を板で挟み込み、挟んだ部分に染料が入るのを防いで柄をつくる。畳み方や板の置く位置などは細かく加工書に記録される。
「記録に残せば誰でも見ればわかるから」と大籠さん。ゴール地点を決めることで再現ができる。工程の整理や工賃の管理もできる。宝島染工が成し遂げる「中量生産」は、こうした体制づくりにある。
自分が面白いと思えるものを
天然染料はどう転んでも美しいと思える。色にストレスを感じないんですよね。化学染料だから嫌いとか悪いとかは思わない。ただ、結局自分は手染めが好きだし、よりやってみて面白いと思えるものを選択したというか。あと藍染はやっぱりいつまでやっても飽きないですね。終わりがない仕事って感じがすごくします。
天然染料と化学染料、その両方の現場を経験した上で、どうして今の形を選んだのか伺うと、大籠さんはこう答えられました。天然と化学、アナログとデジタル、手仕事と機械…などなど、こうした線引きは様々なところにあると思います。しかし、実は対立したものではないのかもしれません。その上で、自分に合ったもの、自分が面白いと思えるものを選ぶ。とてもシンプルですが、その個人の意志から生まれる選択に力強さを感じます。
道具は身近なところにある
「道具は基本ホームセンターにあるもので考えている」と答える大籠さん。絞りで使うゴムはいらなくなった”自転車のチューブ”、染料を擦り付けるのには”食品ラップ”など、専用の道具と思いきやどこでも手に入るものを使いながら染めていました。
昔は植物や糸を染めの道具として使ったり面白い技法があるけど、昔の道具は無くなってしまうじゃないですか。だからそれをどう代替できるか考えると身近なものになる。
身の回りにあるものでどう転換できるのか。過去の文脈を再解釈することを、宝島染工の現場では思考され続けているのだろうと思います。
染めと向き合う具体的な思考
宝島染工の多彩な表現
今回製作したMONPEは、代表の大籠千春さんに染めて頂きました。1本ごとに異なる染色技法を用いています。
現代風MONPE (S)
1. 藍染 / 追東風絞(おっこちしぼり)
追東風絞りとは、絞った部分だけを染める部分染めのこと。江戸時代後期の庶民の中で流行したと言われています。名前の由来は、絞り上がった白地に東風(こち)が吹いて藍がめの中に落ち、一部分だけ染まって柄になったという伝承があります。大胆な大柄は、茶室の装飾などに使われたそうです。
Farmers’ MONPE (S)
2. 藍染・ミロバラン草木染め / 板締
藍染の上にミロバランという草木を染め重ねています。板締めで防染した部分をずらして染め、藍、グレー、白の色の変化を楽しめます。
現代風MONPE (M)
3. 藍染 / 白影板締
白影とは、白地に模様を染め出した絞り染めで、愛知県の有松絞りに由来します。庶民が身につけた深い藍染とは異なり、白地が多く汚れやすいため、贅沢品として主に身分の高い武士や貴族が着用しました。
Farmers’ MONPE (M)
4. 柿渋・墨・草木染め / 捺染・スパッタリング
絣の柄の繰り返しから着想し、ウエストから裾までグラデーションしながら一つの柄になる設計になっています。柿渋を使うことで洗濯にも強く、しっかりとした風合いを表現しています。
現代風MONPE (L)
5. 墨・草木染め / スパッタリング
絣の柄にある「矢絣」から着想し、製品染めの手法で柄をつくっています。生地をマスキングしながら墨を吹き付け、規則的な配置の柄がふわッとのぼるような表情になっています。
Farmers’ MONPE (L)
6. 泥染・墨・ログウッド・ひよこ豆 / 捺染・スパッタリング
全体を泥染した上に、墨・ログウッド・ひよこ豆を混ぜた染料を擦りつけたり、吹き付けたりして染めています。飛び散った染料の粒が滲み、集まって大きな水玉のような柄を描いています。
宝島染工が染料として使うひよこ豆は、染料の粘度調整や防染糊としての役割を果たします。また、食べ物(自然に還るもの)であるため、染料として使っても捨てやすい、洗いやすいというメリットもあるとのことです。
※数量限定のため「抽選」での販売となります。企画詳細はこちら
「染め」という営みと風景
「ネイティブスケープ」を体感するMONPE
うなぎの寝床では、その土地固有の文化と物語を重んじながら未来へと繋いでいく人々がいる風景「Nativescape(ネイティブスケープ)*」を考えてきました。
過去から繋がってきた営みを、今いる人たちがどう解釈し、どう表現するのか。今回は、様々な背景を持って「染め」に携わる3人のつくりてにMONPEを染めて頂きました。それぞれのつくりての表現を、またその先にある「Nativescape」を、MONPEを通して体感していただけたらと思います。
*Nativescape (ネイティブスケープ)
「ネイティブ(その土地固有の)」と「ランドスケープ(風景)」を足した造語。うなぎの寝床では、土地性・歴史性を重んじ、未来に対して思考し続ける人が、営みを持続しながら活動する風景をネイティブスケープ(NATIVESCAPE)として定義します。
取材:荻野