染のあるネイティブスケープ【1】 染にまつわる水と藍染のはなし

「地域文化って何だろう?研究会」も5回目と回を重ねました。今回のテーマは「染のあるネイティブスケープ展」と題し、染めに関して研究していきます。

 

■ どうして染めには水が必要で、重要なのか

染めに必要なモノといえば、染める原材料と水。特に水は、原料となるモノを煮るとき、染液を作るとき、染めた後に染液を洗い流すときにと、あらゆる工程で大量に必要となります。例えば、伝統的な天然灰汁発酵建ての藍染めは、藍の原料となる「すくも」に木灰を水に浸した上澄み液となる灰汁(あく)を加えて練り染液を作り、染め終わった糸や布を水で洗い流すという過程を踏みます。
その他の染めの原料も同様に水を使い染めの工程を行っていきます。

また染色には水の「硬度」が影響すると言われており、鉄分やカルシウムなどのミネラル成分を含む「硬水」を使うと、発色がよくなかったり、生地を硬くしてしまう要因になることも。そのため、染色を行う場合、ミネラル成分の少ない「軟水」が適しているのです。

もともと日本の地下水や川の水のほとんどが「軟水」と言われており、染色だけではなく、日本酒づくりをはじめ、和食づくりに欠かせない出汁をとる際、緑茶を入れる際にもミネラル成分が少ない軟水が適しているといわれています。
生活用水としてだけではなく、日本の食文化の面においても、水の存在の重要性は切り離しては考えられないことのようです。

 

■ 水資源の豊富な地域と水との関係性

水道が整備される以前、人びとの生活の周りには、川の水や地下水しか水資源はありませんでした。生活用水としてだけではなく、染めの作業を行うためにもこれらの水資源を使用してきました。今でも染めの作業を行う場合は、水道水を使用することは殆どなく、以前と同様に、川の水や地下水を汲み上げ、その水で染めを行い、染め終わった水は、再利用するための様々な処理を経て川へと戻していきます。そうすることで川の水などは循環されていきます。

全てが天然染めであった19世紀までは、近くの川で洗い流しても問題ありませんでした。しかし、化学染料が登場すると川へ染料を流すことが環境問題を引き起こす要因となり、排水前に様々な水処理が必要となりました。

水を循環させるためには、いったいどんな処理が必要なのか…。
主に化学染料で染めを行う筑後市の筑後染織協同組合で行われている廃水処理を例にとると、硫黄で水の色抜きをし、水中のバクテリアに糊などを分解させ、アルカリによっている水に化学物質を入れて中性に戻し、上澄みの水のみ排水します。排水されない沈殿物は、処理場で燃やされ、その燃えカスはアスファルトや土壌改良剤として利用されています。

水資源が豊富な土地だからこそ、その土地の水の環境を守りつつ、染の技術の継承がここまで続けられてきたのかもしれません。

 

■ 藍染が日本に浸透していった訳

染の原材料として、よく耳にする「藍」。
藍染は一般的に、藍という植物を使って染める染め方のことを言います。
生葉を絞って染める生葉染めと、藍の乾燥葉を発酵させて染液を作る「すくも法」による藍建て染めなどがあります。藍の種類には、タデ科のタデ藍、マメ科のインド藍、キツネノマゴ科の琉球藍などがありますが、日本では主にタデ藍が使われ徳島の阿波藍、北海道の伊達の藍などがあり、沖縄や奄美大島では琉球藍が使われています。

藍染めの始まりは古代エジプトに遡りますが、日本では鎌倉時代から武家で愛用されはじめ、江戸時代に綿布の発展と共に全国へと広がり庶民の暮らしの中に馴染んで行きました。もともとタデ藍は、解熱や解毒などの漢方薬としての役割があったり、防虫防カビ効果もあわせもつ優れた素材だったこと、さらに藍で染めた布は強度があるため作業着としての役割にも適しており、人びとのあいだで好んで使われ始めた理由はそう言ったところにもあったようです。

黒に近い暗い藍色は「搗色(かちいろ)」と呼ばれ、武士の間では縁起をかつぎ「勝ち色」とし、好まれて身に着けていた色だったとか。藍色が「ジャパン・ブルー」と称され、今でもスポーツなどの試合時に好まれ使用される所以でしょう。
「搗色(かちいろ)」をはじめ、藍色の種類は48種類あり、青系統の色でもっとも種類が多いと言われています。48種類の藍色それぞれには、「甕覗き(かめのぞき)」「薄花桜(うすはなざくら)」「搗返し(かちがえし)」などのような繊細な響きの名前も付けられており、日本文化ならではの色彩の表現方法とも言えそうです。

 

日本へ浸透していった染を代表する藍染の手法、豊富な水資源と染の関係性について少し調べはじめたところから、今につながる「染のあるネイティブスケープ」をさらに研究していきましょう。

企画展では、「宝島染工」、「藍染絣工房」、「原絹織物」をはじめとしたつくりての染め物商品がご覧いただけたり、原材料となる「藍」や「すくも」、藍染の経年変化をもんぺを例にとって紹介しています。さらに展示物でみる染と水のはなしなど、様々な内容をご用意しています。

(研究員U)

◯ 染のあるネイティブスケープ展 開催情報はこちら

 

参考文献

・ミツカン水の文化センター(2017. 2)「暮らしに根づいた日本の『藍』」『水の文化』55号

・綾の手紬染織工房 HP「綾のめぐみ 天然灰汁発酵建て『藍』」

・KONYA HP「藍色48色」

・水野染工場 HP「伝統技術『藍染』に欠かせない蒅(すくも)の作り方」

・漢方薬のきぐすり.com HP「夏の草木染 – 藍の生葉染(なまばぞめ)-」

・藍のある暮らし、はじめよう HP「藍を知る」

・伝統食のいろは-Traditional colors of Japan- HP 「勝色とは?」

・歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人 HP「なぜ藍はこんなに愛される? ー藍染の魔術」

・萩原 健太郎(久野 恵一 監修)(2012)「民藝の教科書② 染めと織り」グラフィック社

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