紙のあるネイティブスケープ【2】 紙の機能性、紙の可能性

日々の暮らしの中で、「紙」の存在に着目することはそんなに多くはないかもしれません。しかしながら、私たちはこの「紙」という存在について、その歴史を振り返り、学びを深めることで「紙」の可能性へと視野を広げることができるのではないかと考えます。

日本へ紙が伝播し日常的に使われるようになり、日本独自の生活や文化の中でその必要性に応じて改良を重ね、紙自体の機能性を向上させ続けてきたこと。さらに、利便性を高めるための工夫を講じることで紙の秘めた可能性を導き出してきたことなど、紙の歴史と日本文化の発展は切っても切り離せない関係にありそうです。

「紙は文化のバロメーター」とも言われている紙の生産量の増減が、日本文化の発展さらに時代の変化を示す指標になるとも言われていたからです。

どんなところに紙の機能性と可能性を垣間見ることができるのか、今回の企画展を機に、少しまとめていきたいと思います。

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■ 紙の機能性

紙が日本で使われ始め、その存在が生活の中に浸透し、現在に至るまでに果たしてきた役割は、多岐にわたります。

その1. 文化を記録する

今の時代において記録するものを考えると、ノート、封筒や便箋、新聞、雑誌や書籍などが思い浮かびますが、そもそも日本に紙が伝わり最初に記録したとされるものは「経典」でした。

仏教の布教活動のため、経典を写し記録として残すことに使われていたようで、仏様の教えを伝える大切な経典を書き込む紙ですから後世に継いでいく大切なもの。丈夫で長持ちさせなければいけないと考えると、紙自体の作りも次第に精度があがっていったのではないでしょうか。

平安時代になると、かな文字の発明により和歌や物語が貴族の間で流行り、それらを綴るために紙が使われるようになります。美しく鮮やかに色付けしたり、金箔をほどこすなど、雅で華やかな紙が作られ始めます。さらに時代が進み江戸時代に入ると、かわら版や浮世絵の文化が広まり、庶民の生活にも紙が定着することになります。
文章や絵をかきその情報や文化を広めるために一役買っていた、ということになるのでしょうか?

 

その2. 家の中を暮らしやすくする

襖(ふすま)、障子(しょうじ)、屏風(びょうぶ)など、昔の日本家屋には和紙がふんだんに使われていました。丈夫で美しいだけではなく、部屋の中の間仕切りの役目も果たしています。
さらに、日本の高温多湿な風土の中、湿度の高い夏場は適度に湿気を取り除き、乾燥してくると紙はピッとハリがもどってくるなど、吸収性・調湿性にも優れています。
また、夏場は差し込む日差しの強さを緩和し紫外線を遮断する役目を担い、冬場は外に熱を逃がさない断熱性も高いなど、ひとが快適に過ごすための機能性を多岐にわたり持ち合わせていることも、紙が暮らしの中に多くとりいれられている理由のようです。

 

その3. あかりを生み出す

夜道を明るく照らす行燈(あんどん)や提灯(ちょうちん)、炎を燃やすろうそくの芯、さらには暗闇を美しく彩る花火にも紙は使われています。
電気が発明される以前、行燈は室内などの照明器具の代わり、提灯は懐中電灯のような役割だったのでしょう。日が落ちると何も活動ができなくなってしまう時代もあったと思いますが、紙を使った行燈や提灯が開発されてからはきっと、夜になっても外を出歩いたり、家の中での作業を不自由なくできるようになり人びとの活動の幅が広がったり、1日に使える時間も長くなり生活の質も向上していったのではないでしょうか?
花火に特化して言うと、暗闇の中に明るさをもたらしただけではなく、人びとの暮らしに娯楽まで作り上げたと言っても過言ではないでしょう。

 

■ 紙の可能性

機能性としていくつか挙げた例は、紙がこれまでに私たちの生活にもたらした文化の発展のひとつですが、これからの未来を見据えたとき、紙の可能性についても触れてみたいと思います。

その1. 紙はどんどん強くなる

一般的な和紙や洋紙のように簡単に手で割ける、トイレットペーパーのように水に溶ける、ティッシュペーパーのように肌触りが良く柔らかいなど、従来の紙のイメージはどちらかというと脆く繊細な形状が想定できるように思います。

しかしながら最近では、様々な加工技術が進んできたことにより紙の強度が増し、容易に破れたり壊れたりしない製品も登場しています。紙の強度についていえば、日本では1900年初頭に梱包材として登場した「段ボール」の存在が大きいのではないでしょうか。

現在では、柿渋を塗った厚紙に蝋引きを施し、耐久性と強度を持たせたや紙のコンテナや、持ち運びしても汚れづらく耐久性のあるドキュメントケースなど、日用品の中で簡単に痛まず長持ちして使えるようなさらに強い紙の製品がどんどん開発されています。

旅館の食事の際に鍋として使われるストーンペーパー(紙鍋)みたいに、水にも火にも強い紙もあれば、水を入れることができる段ボール箱なども最近では開発されていたりと、様々な強さを兼ね備えた紙が登場してきています。

 

その2. 紙の使われ方色々

紙の商品開発の向上によって近年では、和紙をコヨリ状にして生まれた糸からできたタオルやシーツ、シャツ、パンツなど、私たちの衣服や日用品の中にも紙が使われています。家の中の吸湿性・調湿性だけではなく、人の体温調整、汗をかいたときの速乾性にも優れている点が紙を使うことの利点でもありそうです。

意外なところでは、電気機器やそのケーブルなどの電気絶縁のために広く使われる紙「絶縁紙」という紙素材もあり、商品開発の原点は和紙加工からという製造会社も存在しています。

最近では、紙の繊維をナノレベルまで細かくしたと言われている「セルロースナノファイバー」という素材が登場しており、すでに自動車のボディやパーツ、住宅建材や掃除機などの家電用品などにも使われ始めています。

さらにこの「セルロースナノファイバー」の開発が進み、「透明の紙」を使った「紙のディスプレイ」や「紙のデバイス」が近い将来世の中に出回り、私たちが持ち歩くスマートフォンやパソコンにも使われ出すことも現実味を帯びてきているようです。

 

その3. 紙リサイクルのこれから

紙のリサイクルは、今に限ったことではありません。古く平安時代の頃から紙のリサイクルは行われ、経典を廃棄する際に「古紙の抄き返し」といわれる方法で、使用済みの和紙を再利用させていたとか。

抄き返した紙は「薄墨紙(うすずみがみ)」または「還魂紙(かんこんし)」とも呼ばれ、再生した紙には墨の色がうっすら残ること、魂が還元されるものであり、紙にも魂が残ると考えられていたことから、そういった呼び名がつけられていたそうです。今もなお、「還魂紙」に価値を見出し、作り続けている「名尾手すき和紙」のようなつくりても存在しています。

脱プラスチックの動きも加速している今、プラスチックに代わるものとして、環境に優しい素材である紙の存在が再び注目されています。プラスチックストローから紙ストローへの移行や、古紙再生の技術の向上、使用済みの紙おむつを再利用する技術など、身近なところでも進んでいます。

ペーパーレス化が叫ばれ、紙を使い続けることは良くない、できるだけ紙を使わないようにとあらゆる手段を講じてきました。しかしながら、紙のありかたが時代とともに変化し続けている今、新しい技術やリサイクルの循環によって、紙の用途は形を変えて私たちの生活の中で使われ続けていきそうです。

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日本の長い歴史の中で培われた紙をつくる技術。

紙の進化に伴い、その機能自体が日本の風土にとても適していることがわかってきて様々な場面で取り入れられてきました。

そしてこれからの未来に向けて、紙の秘めた力や、私たちがまだ知らない未知の可能性が秘められていることも、今回の研究を通して少しずつですが見えてきたようです。

(研究員U)

 

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– 参考資料 – 

・朝日新聞(2022. 3. 15)「クーラーボックスにも使える 水OKの段ボール箱『新たな容器に』」

・荒川印刷 HP(2018. 6. 26)「新川印刷ブログ | ストーンペーパーとは? 石から生まれた燃えにくい紙」

・おうちで名画印刷(2022. 3. 9)「5分でわかる和紙の基礎知識|江戸時代の活用シーンを浮世絵で」

・環境省 HP「CNFとは」

・ナガイホールディングス HP 「環境対策を目指した古紙リサイクル」

・ニッポン高度紙工業株式会社 HP「よくわかるNKKガイド STEP2 | 高度紙の原点と成長の軌跡」

・にぽにか 2016 no.18 特集:技術と伝統を今につなぐ日本の紙

・日本製紙連合会 HP「紙のあれこれ」

・平出紙業株式会社 HP「紙の歴史」

・南ゆかり(2018. 7. 12)「大阪大学発『紙の電子ペーパー』が未来を変える。」ほとんど0円大学 HP

・FUTURE IS NOW(2021. 1. 18)「名尾和紙を受け継ぐ最後の工房。7代目・谷口弦さんが後世に残したいものとは。」

・HATCH HP(2021. 10. 1)「脱プラスチック時代の製紙業 環境に配慮した人と紙の新しいつきあい方とは」

・mont-bell HP(2021. 7. 20)「PRODUCTS FILE | 軽くて涼しい「紙」の服、KAMICO(カミコ)」

・RESTA HP「ふすま・障子の必要性」

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