【2000字コラム 渡邊令】外の人間だからこそ感じる「九州よかよか文化」

九州の「よかよか文化」とは?

フィンランドの探偵的アーティスト、COMPANYが来日!

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二人が心から感動していた、杉の天然お線香を作る馬場水車場の馬場さんと。

ヘルシンキで生まれたCOMPANYの原点とは。

ただいまフィンランドのアーティスト&デザイナーデュオ、COMPANYのアームとヨハンの二人を、あちこちの作り手さんのところに案内しているのですが、合間の移動中や食事の時に聞く二人の話がとても面白いのです。アーム(Aamu Song)は韓国出身のデザイナーで、ソウルで工業デザインを勉強していたものの、電化製品や車の構造には興味を持てず、北欧デザインに興味を持ち、98年にフィンランドに留学します。そこでグラフィックデザインを勉強していたヨハン(Johan Olin)と出会って、大学での勉強そっちのけで、建築学生や服飾デザイナーなどいろんな分野の友人達と一緒にいろんなコンペなどに出したり、好き勝手ファッションショーをしたり、なんだか楽しそうな青春を謳歌したようです。「最近のヘルシンキのアート大学の学生は、学校の勉強を心配しすぎ。お酒も飲まないしタバコもしないし、ベジタリアンだらけだし、冒険することが少ない気がする」と言ってました。日本でも学生の内向き志向が言われて久しいですが、なんとなく全世界共通の流れなのかもしれません。とにかくそんな二人のアーティスト名「COMPANY」は、所詮学生の活動でしょ、と思われたくない!という気持ちで命名されたそうです。ちなみに、もう一つ有力だった名前候補は「Detective Agency Strawberry and Raspberry(探偵事務所 ストロベリー&ラズベリー)」だったそう。二人はデザイナーとしての活動を、探偵のようなものだと初期から捉えていたんだとよくわかりました。

デザインは探偵活動。九州のエネルギーの源を調査中。

そんな二人の探偵活動は、その後SECRET Project(ヒミツプロジェクト)へと発展していきます。フィンランド・エストニア・韓国・ロシア・ベルギー・日本などに残る、いろいろなものづくりの作り手を巡り、その土地の隠されたヒミツや文化を探りながら、新しい解釈を与えてプロダクトやアート作品に転化していくプロジェクトです。うなぎの寝床との接点は、昨年の青森県立美術館での「ニッポン北のヒミツ」展のために、二人が九州・筑後の宮田織物さん、そして八女の下川織物さんとコラボをして、こけしの顔のパーツをモチーフにした久留米絣テキスタイルを製作したことから。その生地を使って、宮田織物さんの半纏と、うなぎのもんぺを一緒に作りました(詳細はこちらを)。寡黙で物静かな青森県の人たちとは違い、そのぎゃあぎゃあな九州エネルギーに驚いた二人が、西日本は一体どうなっているんだ!?という疑問を抱いて、今回偵察に来てくれているというわけなのです。ヨハンをあちこちの工房に連れていくと、興味深いと思った部分の事細かな構造を、すごいクオリティで探偵ノートに記していきます。提灯屋さんでは「産業スパイ」のようだと言われたほどです。そういう実質的な部分だけでなく、二人の興味の範囲は、九州の人の名字の意味から、キャバクラとスナックの違いに至るまで、実に多種多様です。住んでいる人や実際に作っている人には当たり前すぎて見えていない部分を、外から見るからこそ疑問に思ったり解明できるのだと思います。

東京育ちが感じる、九州のよかよか文化。

私自身も東京で生まれ育ち、九州という土地には縁はありませんでした。同じ日本なので共通する部分も多々あるのですが、似ているからこそ逆に「違い」が強調されて感じたりもします。九州も多様性には溢れていますが、共通しているのは「よかよか文化」だと思っています。「まぁよかよか」・・・その大らかな精神性は、北日本に比べれば温暖で、農作物が豊富にあって、アジアとの距離も近く、古代から外の世界とのやりとりも活発だったという、地理的・歴史的条件が大きく影響しているのではないかと。そんな南国気質ながらも、沖縄と違うのは、やはりいつの時代も国の中心ではなかったということでしょう。大和朝廷から江戸幕府に至るまで、常に本州や中国・韓国などの周辺列強との関係の中で生き抜いてきた土地柄です。いろんなところと上手くやっていきながら、攻めと守りを使い分け、自分たちの暮らしを守る。そんな複雑な立ち位置が、どんと構える「よかよか文化」を形成したのではないかと思えてなりません。歴史などから得られる知識はたくさんあり、しっかりと研究・検証する必要がありますが、それを生きた情報に変えることができるのは、住んでいるからこそ得られる「肌感覚」の部分だと思います。今回のアームとヨハンのように、外の世界からやってきた解釈者と、うなぎメンバーのように現地にいながら活動する解釈者と、一緒に取り組むことでどうなるのか。お互いが感覚や調査結果を情報交換することで、地域に対してのより深い理解が得られることが、最大のメリットなんじゃないかと思います。

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尾崎人形の作り手、高柳さんと。長太郎とお相撲さんがつぼった模様。

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かつて八女で作られていたハゼ蝋燭。アートワークの一環としても取り組んでいる牛島智子さんの元へ。

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隈本木工所のコマ工房へお邪魔。初の絵付け体験。二人向かい合って2本の絵筆で描くのが伝統。

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完成品。たらーん!

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遊び方までしっかり伝える。宮田織物の池田さんが、小さい頃から磨いたスキルを伝授。

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