【つくりて訪問記 / 後編】 祭と風習。地域に息づくしごと / 筑前津屋崎人形巧房のしごと展

このコラムは「筑前津屋崎人形巧房のしごと展(2025年 7/2 〜 7/21) 」に関連した記事の後編です。
前編はこちら↓
【つくりて訪問記 / 前編】 公園の遊具もネイティブスケープである / 筑前津屋崎人形巧房のしごと展

津屋崎人形と「山笠」
どちらも地域のしごと

翔平さんは人形作り以外に、津屋崎祇園山笠の舁き山*(かきやま)づくりもされています。

生まれも育ちも福岡市の筆者ですが、博多の山笠に馴染みは深いけれど、津屋崎の山笠は「なんかほかの地域でも山笠と名の付くお祭りがあるらしい」ぐらいの認識だったため、今回初めてじっくりと調べました。

津屋崎祇園山笠とは、江戸時代中頃から続くお祭りで、祇園山笠の一つです。福岡市にある櫛田神社から津屋崎の氏神様「波折神社」へ勧請(かんじょう / ご祭神を他の土地に分霊として迎えて祀ること)したことが始まりで、博多祇園山笠と同じしきたりで運営されています。「流(ながれ)」と呼ばれる地域ごとのチームが、岡流、新町流、北流の3流れあり、全ての山を8代目・翔平さんと7代目・誠さんの親子が手がけます。戦国時代の合戦などからその年のテーマを決め、人形や山の装飾をひとつひとつ手づくりするまで一貫して行っています。

津屋崎祇園山笠は博多祇園山笠と違い、飾り山と舁き山が一緒になっており、飾り山を神社に奉納したのち、そのままの豪華絢爛な山を舁き子たちが担ぎます。飾りは、基本的には先祖代々受け継いできたものを修復して使いますが、岩や波などの山の一番外側に配置される飾りは、損傷が激しいことが多いため、毎年新しく作ります。岩は100枚以上、波は200枚以上、水しぶきは1000本以上。途方もない数を、形から着彩まで全て手作業で作られています。そのため、毎年6~7月は人形作りはお休みに。山笠のお仕事に専念されます。

*舁き山…
担いで町を駆け抜ける山笠のこと。博多祇園山笠では舁き山と飾り山(豪華な人形を飾り付けた鑑賞用の山笠)の2種類あるが、津屋崎祇園山笠では2つは一緒になっている。

博多祇園山笠に「ご神入れ(ごしんいれ)」という、山に神様を迎え入れる神事があるように、津屋崎祇園山笠にも「山に神様が降りてくる」という考えがあります。

そのため、津屋崎、とくに舁き子や山笠に関係する人々の間では、「きれいな山だから神様が降りてくる」「神様が乗る場所がうす汚れていてはいけない」という教えが言い伝えられているそうです。山のきれいさの要である飾りを修復するとき、特に神様が入るお堂の修復では、アルミでできた飾りを毎年作り替えたり、お堂全体を特殊な塗料で塗り耐久性を高めたりなど、なるべくきれいに壊れにくいように、また煌びやかな状態に修復して使っているそうです。

博多祇園山笠と似た習わしは他にもあり、山笠が終わると舁き手が山の飾りを持って帰り、無病息災を願って玄関に飾ります。福岡市内、特に博多区を歩いていると、玄関先に舁き縄が飾られてるのを見かけることがありますが、筑前津屋崎人形巧房のある津屋崎千軒では博多の町と同じように舁き縄と、追加して山の飾りが一緒に飾ってあるのを見かけました。

 

津屋崎千軒あけぼのの玄関に飾られた、ベタの波と水しぶきと舁き縄。ベタの波とは、平坦な波という意味。銀色の木琴用のバチのようなものが水しぶき。毎年何百何千という数を、翔平さんは手作業で作っている!

工房へ伺ったのは平日の昼頃。工房を見せていただいた後に、津屋崎の街を散策しました。津屋崎千軒の辺りは住宅街で、静かでゆっくりと時間の過ぎていきました。古い家も新しい家も関係なく山笠飾りが飾られおり、それがわざとらしくなく、津屋崎祇園山笠もその飾りを玄関に飾ることも、津屋崎の住民の方々には当たり前になるほど浸透しているんだと感じました。

 

責任感は違えど、全て地域につながるしごと

他にも、志賀海神社の授与品を博多人形師の中村弘峰さんと一緒に共同制作されるなど、地域に貢献するお仕事もされている翔平さんですが、人形づくりと地域の仕事とを、あまり区別をつけていないそう。

山笠の仕事は目の前の人のために作るという、人形作りとは違う責任感があるけれど、「筑前津屋崎人形巧房」という屋号のため、人形作りも地域貢献の感覚でしていて、全国各地に配送する時は、人形たちに津屋崎を代表して、津屋崎を宣伝しに行ってもらっている感覚だと仰っていました。

そんな人形を手に取って、お迎えしてもらった後には、自分の子どもや家族のように人形を想って手の届くところに置いて楽しんでほしいそうで、そうおっしゃる翔平さんも人形を我が子のように思っているように感じました。地域への愛情が人形作りへの愛情に繋がり、人形が作られているように思いました。

うなぎの寝床 アクロス福岡店 仙道

<参考文献>
・津屋崎祇園山笠三百年記念記録誌(2014.3)津屋崎祇園山笠三百年記念記録誌委員会
【人形飾り】山笠はどうやってできているのか【津屋崎|上須恵|田熊|鐘崎】(2024.3.7)筑前津屋崎人形巧房のかわらばん

 

津屋崎という地域に根づく津屋崎人形。そんな人形を集めた企画展「筑前津屋崎人形巧房のしごと展」がアクロス福岡店で開催中です。期間限定のラインナップや、「山笠ごん太」「山笠めんこマグネット」など季節ならではの人形を、ぜひ会場でご覧ください。

筑前津屋崎人形巧房のしごと展
うなぎの寝床 アクロス福岡店
2025年 7月2日(水)~21日(月・祝)

店休:火曜日
時間:10:00~19:00
住所:福岡市中央区天神1‐1‐1 アクロス福岡1F 匠ギャラリー内(会場アクセス
電話:092₋753-7223

読み込み中…