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本野はきもの工業
日田市は昔から林業が盛んな杉の名産地で、下駄の三大産地の一つでもあります。本野はきもの工業は1948年創業で現在3代目となり、分業が大半である現代の下駄づくりで、生産から販売まで全て自社工房での一本化を実現しています。すべての工程に職人自身が携わることができ、分業制に依存せず自由に物づくりができる環境を整えています。下駄の材料は、建具や家具などの木工材として伐採される良質な日田杉を使用しています。日田下駄の特徴は木の表面を焼く神代焼き仕上げで、木目の美しさと、木の調湿機能を妨げない無塗装仕上げにより足裏の快適さと足触りの優しさを生み出します。また本野はきもの工業では、下駄の表情が広がる塗り仕上げなども行います。昔ながらの下駄はもちろん、ハイヒール下駄や新素材を使った下駄など新たな商品作りにも挑戦し、商品の層を厚くすることで多くの方に日田下駄を知ってもらいたい、履き心地の良さを体感してほしいという思いで取り組んでいます。
■ 歴史 : 日本三大生産地の日田下駄。江戸時代から続く地域の特産品
日田で下駄作りが始まったのは、江戸の天保年間(1830-1844)といわれます。日田市はかつて、徳川幕府の直轄地である「天領」だったこともあり、江戸・大阪など都市部との繋がりが強く、町人文化の発展とともに日田下駄の需要も伸びていきました。1924年(大正13年)には生産量が年間300万足を超え、静岡・福山(広島)と並び下駄の三大産地に数えられるようになりました。当初は桐下駄が多かったそうですが、明治には地元の良質な杉や松を使った下駄の製造に切り替わっていきました。1946年の最盛期には200件もの工房があり、年間生産量が2000万足に達した日田下駄ですが、水害や西洋靴の普及によって生産量は減少していきます。現在は10件ほどの工房によって昔ながらの下駄作りが継承されています。
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■ 土地性 : 盆地の気候と、水脈を生かした水陸交通で発展した日田杉
日田下駄作りには、現在も主要な原料である日田杉の存在が欠かせません。江戸時代、幕府や代官が殖産産業の手段として植林を奨励したこともあり、杉は日田の一大産業に発展しました。日田は盆地のため夏は暑くて冬は寒く、また雨量も多いため、赤身が多く害虫や湿気の影響を受けにくい良質な杉を育てるのに適した気候です。また、阿蘇・くじゅう山系や英彦山系の標高1000m級の山々に囲まれ、その山々から流れ出る大山川、玖珠川、花月川など多くの支流が合流し、本流の三隈川となって日田市内に流れており、この水脈を利用した水陸交通にも恵まれました。日田では「木流し」と呼ばれる男衆によって、伐採された丸太で山筏を組んで川を下り、木屋親方と呼ばれる材木屋の集積場まで運ばれました。こうした木材が建材や下駄の原料として使われたのです。
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■ 素材 : 全国的にも珍しい杉下駄。無塗装で木が「呼吸」できる心地よさ
もともと日田下駄は、建材では使われない日田杉の根元部分で作られることが一般的ですが、本野はきもの工業では、建材用の材料を使ったより上質な下駄づくりに取り組んでいます。他の下駄産地では、会津桐などを使った桐下駄が一般的な中、杉下駄は全国的に見ても珍しい存在です。杉は、軽さと丈夫さを兼ね備え、柔らかくてクッション性も高く、履き心地に優れています。また、塗装をせずにそのまま使うことができるため、いわば木が「呼吸」できる状態のまま、足の裏がベタベタしにくく蒸れにくいのが特徴です。他にも、本野はきもの工業では「ハイヒール下駄」や杉とアクリルの集成材を使った「クリア下駄」など、新たな商品づくりにも挑戦。商品の層を厚くすることで、下駄を履いてもらう機会を増やし、日田下駄の良さを広めたいと考えています。
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■ 技術 : 削り出しから仕上げまで。日田杉の木目が美しい神代焼仕上げも
本野はきもの工業で作られる下駄は、製材所から仕入れた角材の木目を見極めながら下駄の形に削り出すという工程から始まります。屋外で円形状に生地を並べ重ねる「輪積」という方法で、生地を数ヶ月間、天然乾燥させます。十分に乾燥した生地に、ドリルで鼻緒を通す穴を開け、やすりをかけて形を整えます。そして、神代焼仕上げや塗りなどの加工を施し、下駄に表情を持たせます。神代焼仕上げは、木の表面を真っ黒に焼いてから磨くことで、柔らかいところは白く削られ、木目だけが黒く残る技法で、日田杉の木目の美しさが味わえます。他にも、黒塗装や艶出し加工などの塗り仕上げも行なっており、これは二代目である父・廣明さんの担当です。最後に、様々な色やデザインの鼻緒を結びつけると、日田下駄の完成です。
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■ 思想 : 一貫生産で得られる自由なものづくりで、新たな需要を生みたい
日田は下駄の三大産地の中で唯一、分業制が形成された産地です。分業は大きく3つに分われており、丸太から「下駄枕」と呼ばれる角材にする製材所、その下駄枕を下駄の生地にする生地屋、そして生地から下駄へと加工する下駄屋です。しかし、年々従事者が減っていく中、本野はきもの工業の3代目・本野雅幸さんは、分業に依存せずに自由にものづくりができる環境を模索。新たに機械を導入するなどし、生地作りから下駄加工までを一貫生産できる体制への変化を進めています。その行動の背景には、高齢化や海外産の安価な下駄におされ、年々活気を失っている下駄作りへの危機感があります。現代の暮らしの中にも取り入れてもらえる下駄を目指し、事業を引き継がれたご両親、デザインも手がける奥様ら家族一丸で新たな挑戦を続けています。
※あくまでもうなぎの寝床が解釈する、つくりてのものづくりへの思いや思想です。
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大分県のつくりて 全11社
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大分県由布市で竹工芸を行う中村さとみさんは、祖父が建具職人、伯父が大工ということもあり初めは日本家屋の欄間彫刻の仕事に就きます。その後、飛騨高山の家具メーカーに…
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