【つくりて訪問記 / 前編】 公園の遊具もネイティブスケープである / 筑前津屋崎人形巧房のしごと展
可愛らしいフォルムと絶妙な表情。福岡県・福津市の郷土人形「津屋崎人形」を作っている「筑前津屋崎人形巧房」は、1777年創業(なんと江戸時代から)。もともと津屋崎の在自(あらじ)地区で質のいい粘土が取れたことから、火消壺や甕などの生活陶器を作っていましたが、次第に古博多人形(博多人形の祖型)の影響を受けて人形作りを始め、今では津屋崎人形をつくる唯一のつくりてです。 江戸時代から続く技術や型を、現在受け継いでいるのは、8代目の人形師・原田翔平さん。今回アクロス福岡店にて開催している「筑前津屋崎人形巧房のしごと展(2025年7/2 〜 7/21)」に際し、工房に訪問してお話を伺いました。
うなぎの寝床 アクロス福岡店 仙道

公園の遊具、愛娘の名前
モチーフは生活のワンシーンに
筑前津屋崎人形巧房8代目の原田翔平さんは、公務員を退職後家業を継ぐため人形師に。先代の誠さんと一緒に、モマ笛やごん太など定番の人形も作りながら、新しい人形の制作もされています。
そのモチーフは、伝統的なものばかりではなく、翔平さん自身が目にした日常から着想を得た人形なども多くあります。
例えば、日和見シリーズの「日和見ひよこ」は、翔平さんの娘さんの名前を取った人形。娘さんへの願いが込められています。また、新作の「イルカ乗り童」は、工房近くの公園にあるイルカの乗り物がモチーフになっています。
娘さんと公園で遊んでいるときに目についたイルカの遊具。「どこを向いているのか?」と思ってしまうような不思議な表情。翔平さんが子供のころから公園にあるらしく、昔からこの表情だそう。
「今はイルカの目は『子供が安定して乗ってイルカ』を気にしている様子だと思います」と、筑前津屋崎人形巧房のX(旧Twitter)でつぶやかれていた。
翔平さんの娘さんの名前を取った「日和見(ひよりみ)ひよこ」。「日和見」は天気の状況をうかがうことで、江戸時代には各地の港近くの小高い丘に日和見を行う場所があったとされている。古くから海上交易の町として栄えた津屋崎とも縁がある。
翔平さんが福岡市博物館の展示で見た貝面をモチーフにした「貝面童子」。博物館では「仮面として使われていた」と表記されていたが、現物が5〜10cmと小さいため、「赤子の成長の祈りのために使われていたのではないか」と推測し、この人形になったそう。
お話を聞く中で翔平さんは、昔の人もこんな感じで身近なところから着想を得て人形を作っていたのではないかと仰っていました。
実際に津屋崎人形には、食事のたびに吹くことでお年寄りや子どもの誤嚥(ごえん)を防ぐためにも使われていたという「モマ笛」や、素焼きに米粉を塗り赤ちゃんのおしゃぶりとして使われていたこともある「ごん太」が古くから作られており、昔の人形師も日常のワンシーンからヒントを得て作っていたことが伺えます。
火消壺や甕(かめ)など生活陶器の制作から始まったつくりてである事や、日常からテーマを見つけ形にしている事を考えると、生活陶器を作っていた時も、日常の困りごとを解決するような、使い手の気持ちを考えながらものづくりをされていたのではと想像します。日常の風景から着想を得てものづくりすることが、筑前津屋崎人形巧房さんらしさなのだと思いました。
Photo by Koichiro Fujimoto
製法は、博多人形と同じく二枚型による手押し製法。土を型に押し入れ、乾かして取り出し、窯で焼く。
型は、総勢1000種類以上あり、全て現役。右の写真の型に書かれた「安政」の文字は江戸時代の年号(1855年~1860年)。
型には素焼きした土型と、石膏型の2種類があり、素焼きの型は江戸時代から大正時代にかけて作られ、固く変形しづらいのが特徴な反面、何度も型抜きすると粘土がくっついて外れづらくなるそう。石膏の型は、明治以降に作られ、素焼き型に比べ何十個とたくさん型抜きしても粘土が型から外れやすいのが特徴な反面、柔らかい素材のため使い続けていると細かい凹凸が無くなってしまう。そのため定期的に作り直しており、例えば、昨今大人気のモマ笛の型であれば、1年で背中の羽根の模様が消えてくるため、そのたびに作り直しているとのこと。つくられた時期によって顔や形、模様が少しずつ違うらしい。モマ笛マニア必見!
手を近づけるとじんわりあたたかいぐらい焼き上がったばかりの人形。薪窯を使って焼いていた時から、並べずざっくりと窯に投入し焼いていたそう。ざっくり入れても人形同士くっつくことなくきれいに焼けている。
津屋崎の日常の風景が詰まった津屋崎人形。そんな人形を集めた企画展「筑前津屋崎人形巧房のしごと展」がアクロス福岡店にて開催中です。期間限定のラインナップや、「山笠ごん太」「山笠めんこマグネット」など季節ならではの人形を、ぜひ会場でご覧ください。
筑前津屋崎人形巧房のしごと展
うなぎの寝床 アクロス福岡店
2025年 7月2日(水)~21日(月・祝)店休:火曜日
時間:10:00~19:00
住所:福岡市中央区天神1‐1‐1 アクロス福岡1F 匠ギャラリー内(会場アクセス)
電話:092₋753-7223
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