【地域のこと/観光協会】オーストラリアで試されたお菓子作りの創意工夫。老舗の味に活きる、ものづくりの実験精神とは @菓子処 きくや / Yame Rediscovery vol.30
【地域のこと/観光協会】オーストラリアで試されたお菓子作りの創意工夫。老舗の味に活きる、ものづくりの実験精神とは @菓子処 きくや / Yame Rediscovery vol.30
お客さんをおもてなしする時、手土産を持って行く時、ちょっと甘いものが食べたい時。地域密着型の町のお菓子屋さんは、人々の暮らしや人間関係作りに欠かせない存在です。
八女福島で「和菓子」をつくり続けている創業明治35年の「菓子処きくや」さんは、この地域にとってまさにそんな存在。素材にこだわり、新しい味の開発も積極的に行いながらも、100年以上続く老舗の伝統をつないでいます。
地域に根付いた老舗のお菓子屋さんということで、4代目川島健男さん(53歳)からは「親から子への厳しい修行話」などが伺えるのかな?などと想像していたのですが、若い頃はオーストラリアで和菓子作りをされていたと聞いてびっくり。
「試行錯誤しながら、いろいろな素材で実験するのがが好きなんです」と語る川島さん。ものづくりの姿勢や、オーストラリアでの気づき、これからの町のお菓子屋さんの役割、などをお伺いしました。
創業から100年以上、地域に根付いたお菓子屋さん。
もともと「菊香堂」という名前で、明治35年(1802年)に創業した「菓子処きくや」さん。店内の壁面には、昔冠婚葬祭用のお干菓子などを作る際に使われていた、立派なお菓子の木型が飾られています。
創業時から「八女茶」の産地であることを大切にしており、お茶に合う「菓子」を専門に作り続けて来ました。お茶の木の実の形をモチーフにした「茶の実」はそんな思いを込めて、川島さんの祖父である2代目が考案し、70年続く看板商品となっています。
八女抹茶のあんこを包んだ皮にシナモンがまぶしてあって、さらりとした舌触りのあんことシナモンの香りがお茶にもコーヒーにも合う、万能な茶菓子。八女抹茶の風味を余韻を生かしながら、シナモンを組み合わせることで新しいお菓子を作った、2代目の創意工夫が感じられます。
4代目のオーストラリアへの冒険。培われた創意工夫精神。
そんなきくやの4代目として育った川島さん。小さい頃から家業を手伝い、将来継ぐことになるのだろうと思い、学生時代は製菓の勉強のために上京します。卒業後に、一度は外の世界を見ておきたいと、なんとワーキングホリデーでオーストラリアのシドニーに行くことにしたのだそうです。
しかしワーキングホリデーといえども、仕事は自分で見つけなければなりません。言葉もわからない中、唯一自分のスキルがすぐ生かせるのはやはり「和菓子」でした。そこであちこち探した結果、シドニーの小さなベーカリーさんに出会います。
小倉出身のオーナーが経営するベーカリーでしたが、パン・洋菓子にくわえ、現地の日本人のひとたち向けに和菓子も製造していました。しかし、和菓子作りの部分はとにかく人手も素材も不足していたため、川島さんは即戦力として重宝され仕事を任されたのだそうです。
しかし、場所はなんでもある日本ではなく、オーストラリア。川島さんは、水飴がないので蜂蜜を使ったり、現地の食材を使ってできる和菓子をどんどん考案していきました。与えられた環境で、素材で、創意工夫をしながら開発する、川島さんの原点です。
その後、ワーキングホリデーを終え、川島さんは26歳の時に八女に戻ってきました。6年ほど、先代のお父様から技術を学びながら一緒に働き、後を継ぎます。「何でも好きなようにさせてくれた」という先代のおかげで、川島さんは自由なお菓子作りをすることができました。
例えば本で見た色の組み合わせからインスピレーションを受けたり、ストーリーから考えてみたり。毎回、川島さんの創意工夫が詰まっている「月替わりの生菓子」は、そんな川島さんの実験精神の表現の場。印象に残っているお菓子は、娘さんの節句のお祝いのときに作った「若い桃が入ったヨーグルト餡の大福」だとか。
「結局、つくるのが好きなんです」と語る川島さんは、普段はお菓子以外でにも、お酒にあうおつまみを適当につくるのがお好きなんだそうです。こういう、川島さんの実験精神こそがきくやの要なんですね。
素材にこだわった和菓子の味を、覚えていてほしい。
数々の魅力的なお菓子をつくり続けているきくやさんですが、冠婚葬祭などに限らず和菓子が日常づかいのモノだった昔に比べ、需要が昔より減ってきている現状も否めません。
そんな中きくやさんは、現代の生活シーンでどう食べてもらうか、を考えながら新しい食材を使った和菓子を提案したり、和菓子を作るワークショップを開催しています。
スーパーで売られている鮮度の低いあんこしか食べたことがなく、あんこ嫌いになってしまった小さな子でも、自分でつくったできたてのあんこを食べてみるみるうちに大好物になるのだとか。
素材にこだわり、小さな店だからこそできる丁寧なお菓子作りを大切にしたいと語る川島さん。八女茶との相性も抜群ですので、八女に来られた際のお土産にも良いですよ。(ちなみにうなぎスタッフのオススメは「八女茶のあいすどら」)。ぜひ一度立ち寄られてみてください。渡邊・原(二)
◉店舗情報
菓子処きくや
住所:福岡県八女市本町69
電話:0943-22-4643
定休日:不定休
時間:月~土 9:00~20:00、日 9:00~18:00
◉Yame Rediscoveryとは?
八女福島観光協会とうなぎの寝床による、福岡県八女市の福島地区の魅力を伝えるコーナーです。地域に眠っている魅力的な人・食・ことなどの観光資源を「Rediscovery=再発見」し、お伝えしていきます。