【2000文字コラム 渡邊令】ゴムの街、久留米。足袋から始まった、ムーンスターのゴム靴製造の軌跡。

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インジェクション製法に使う金型を加工するベテランの職人さん。背中を見て学ぶ、若手の職人さん。

自然が作り出す、不思議な物質「ゴム」
人間の手が加わって出来上がる、ムーンスターの靴。

「ゴムの街」久留米。タイヤも靴も、すべては「足袋」からはじまった。

福岡県久留米市は「ゴムの街」と言われます。世界最大手のタイヤメーカーに成長したブリヂストン創業の地であり、ゴム産業に関わる会社が多くあるためです。久留米において、かつてブリヂストンと並び「ゴム三社」と言われるのが、ゴム靴メーカーのアサヒコーポレーションとムーンスター(旧月星化成)。学校の上履きや、学生向けの運動靴などで馴染みがある方も多いのではないでしょうか。うなぎの寝床でも、ムーンスターの靴を扱わせてもらっていますが、とても人気のある定番商品です。

実は、ブリヂストンも含めて、久留米でゴム産業が発展した最初のきっかけは「足袋」でした。ムーンスターの創業者である倉田雲平さんが、1873年(明治6年)に「槌屋(つちや)足袋店」として、座敷足袋(ざしきたび)製造を開始し、久留米は足袋生産で一躍有名になります。その後、経済発展が進んだ大正時代になり、アメリカのテニス靴に着想を得て、足袋にゴム底を張りつけて作る「地下足袋(じかたび)」が開発されるのです。このゴム底付きの足袋が、炭鉱や土木系の労働者の作業用の靴として広く定着し、久留米はゴム産業の一大産地となっていくのです。

ゴムってなんだ?究極の不思議天然素材。コロンブスがアメリカ大陸で「発見」した。

そもそも、ゴムってなんなんでしょうか。先日、ムーンスターの工場見学に行かせてもらった際に、初めて「生ゴム」を見ました。もともとゴムは自然由来の素材で、「パラゴムノキ(種名:ヘベア・ブラジリエンシス)」という木の樹液が固まって、ブニブニした状態になる高分子化合物です。アメリカ大陸にしか原生しておらず、3000年以上前のオルメカ文明からはじまり、マヤ文明、アステカ文明の球技場の遺跡からゴムで作ったボールなどが発掘されているそうです。

そのゴムの樹液が西洋世界に「発見」されたのは、かの有名なコロンブスの、1493年のアメリカ大陸への第二次航海のときでした。原住民がゴムボールで遊んでいるのを発見したのだそうです。当時は単純に「面白い物質」としてしか認識されなかったそうですが、1735年にフランス化学アカデミーの探検隊がゴムの実用性に気づき、消しゴムやゴムバンド、防水布など、実用化されるようになります。

18世紀後半には、ブラジルだけで生産されていたゴムの木の種子を、イギリスが極秘に密輸。1876年にキュー王立植物園で発芽に成功し、植民地のセイロン(スリランカ)に運ばれて栽培を行います。その後、マレー半島にゴム園が開かれ、現在では東南アジアが世界最大のゴムの産地担っています。

 

強いゴムを作るための「加硫現象=ヴァルカナイズ」。陶磁器のように窯入れして完成する。

ただ、生のゴムは実は弾性が強いわけではりません。今回、ムーンスターでも見せていただきましたが、加工前のゴムは引っ張ると割と簡単に切れてしまいます。これを克服する技術が、1839年にチャールズ・グッドイアーによって発見された「加硫現象」です。生ゴムに硫黄を加え、焼反応させることによって、弾性限界が大きくなり、簡単には破れない強いゴムを生産できるようになったのです。

この「加硫製法」が、英語では「ヴァルカナイズ製法(Vulcanized)」と呼ばれ、スニーカーの製法の一つなのです。手作業での工程が数多くあり、1つの靴を作り上げるために多くの職人が手が加わるため、ノウハウの蓄積と技術力を求められる製法です。ムーンスターでは独自の配合技術でゴムの生地を作り、場合によっては色も配合し、クッキーの型を抜くように、スニーカーを作るのに必要なパーツを作っていきます。このゴムパーツと、あらかじめ裁縫された布生地の部分を、手作業で張りつけていきます。

この状態では、まだゴムが弱い状態で、靴としては機能しません。そこで、最後の工程「窯入れ」です。120℃に熱せられた窯に入れ、3気圧に分けて、1時間ほど焼きます。まさに陶器作りなどと同じような工程なのです。

 

完全一貫生産だからこそできる「インジェクション製法」。ポリウレタン液を注入!

今回の見学では、もう一つの製法も見せていただきました。「インジェクション製法」と呼ばれる、大掛かりな生産設備が必要になる製法で、国内ではわずかな工場でしか生産することができないそうです。足の形とスニーカーの足底の金型の間に、熱で溶かしたポリウレタンなどの液体を注入して成形する作り方です。実際に見ても驚いたのですが、このポリウレタン液が注入された途端に固まり、瞬時にスニーカーの形ができあがります。

足のサイズに合わせて金型を一つ一つ作るのが大変なところですが、ムーンスターでは鋳造から自社で作っていて、完全な自社一貫生産体制ができていることに驚きました。機械による効率化と、職人の技術の融合で成立している製法です。

 

久留米で原点回帰。高品質の「定番」ものを長く作り続けていくために。

ゴム靴メーカーは、海外の安い製品の流入や、少子化の影響も受けて、事業破綻する会社もあり厳しい時期があったと聞きます。ムーンスターでは、現在は生産の8割は中国の協力工場で作っているそうですが、10年ほど前から自社ブランドの開発に力を入れ始め、量産品店ではなくセレクトショップや雑貨屋さんなどで扱ってもらえるような、付加価値の高い靴を、久留米の500人弱が働く自社工場で生産しています。

シーズンごとにトレンドが変わっていく「ファッションもの」の靴ではなく、飽きられない「定番もの」のデザインを心がけているそうです。ゴム靴というと「量産品」のイメージがありますが、実際の現場を見ると、多種多様な職人技とノウハウの蓄積でしか成立しない工程です。筑後の中心、久留米市を代表する企業であるムーンスター。うなぎの寝床でも、ゴム産業の歴史背景とともに引き続き伝えていきたい技術です。渡邊∈(゜◎゜)∋ ウナー

◉今日のダジャレ
「ゴムの話で盛り上がって、和む」

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通販:http://bit.ly/2bVkvYZ

【参考文献・サイト】
・『ゴムの歴史ー天然ゴムの発見から合成ゴムの登場まで』日本ゴム協會誌 84(12), 366-367, 2011-12-15
・Moonstar会社HP: http://www.moonstar.co.jp
・Made in Kurume (Moonstar) : http://moonstar-manufacturing.jp

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ムーンスターの前身、つちやたび。
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生ゴム。本当は黒茶色だが、お互いにくっつかないように、ブロック状にして、白くコーティングしてある。

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生ゴムに色をつけている工程。なんとこうしてぐるぐると練っていくだけで、色がついていく。不思議な素材。

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生ゴムに色をつけて、模様をつけて、型で抜いたあとの抜け殻。また再利用できるそうです。

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ヴァルカナイズ製法で、生ゴムと張り合わされる前の布生地。

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ヴァルカナイズ製法。布生地をゴムパーツを手作業で合わせていく。

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鋳物の木型と砂。ムーンスターでは鋳造も自社で行う。

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インジェクション製法のウレタン素材の原料。

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インジェクション製法の注入菅の部分が切り取られたあと。プラモデルのランナー(余って捨てるところ)みたい。

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鋳造の作業場。

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インジェクション製法の機械。ブーツを作っているところ。足が2本、飛び出しているのが見えるでしょうか?

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足底とコーティングがされたミニブーツ。余った布生地部分は手作業で切り取られる。

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ムーンスター本社入り口。1917年に建てられたという、歴史ある社屋。

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